「才能」
ゼルクロノスは動かなかった。
巨大な結晶の身体が空中に浮かび、ただルクスを見つめている。その視線だけでルクスの背中には冷や汗が流れた。
逃げたい。
本気でそう思った。
さっきまで人が死んでいた。先輩達が簡単に殺された。そんな怪物が今、自分を見ている。
ルクスは一歩後ろへ下がる。
するとゼルクロノスが腕を上げた。
その瞬間、周囲の空気が震える。何本もの雷が空に現れた。一本じゃない。十本でもない。
数百本。
空全体が雷で埋まった。
「いやいやいや……」
ルクスの顔が青くなる。
「無理だろ……」
本音だった。
勝てる気がしない。
むしろ生き残れる気もしなかった。
そして雷が落ちる。
ルクスは反射的に能力を使う。身体中へ回転を流す。落雷の衝撃が分散される。
だが完全には防げない。
吹き飛ばされる。
地面を何度も転がった。
全身が痛い。
息も苦しい。
それでも死んでいなかった。
レグルスが驚く。
幹部達も驚く。
ドクも言葉を失っていた。
普通なら死んでいる。
何度も。
何度も。
それなのにルクスは立ち上がる。
ルクス自身は気付いていない。
だが今やっていることは異常だった。
回転を身体全体へ循環させる。
衝撃を分散する。
攻撃を逃がす。
誰にも教わっていない。
訓練もしていない。
完全な独学だった。
ゼルクロノスは静かにルクスを見る。
その目には興味があった。
今まで出会った人類とは違う。
弱い。
だが妙に死なない。
不思議な存在だった。
その時だった。
ゼルクロノスが初めて動く。
空から降りてくる。
ゆっくりと。
巨大な身体が地面へ着地する。
轟音が響く。
ルクスは思わず後退る。
目の前に来ると分かる。
大きい。
怖い。
圧倒的だった。
ゼルクロノスはルクスを見下ろす。
そして。
腕を振った。
単純な攻撃だった。
能力ですらない。
ただ殴るだけ。
だが。
ルクスには避けられなかった。
吹き飛ぶ。
建物へ激突する。
壁が砕ける。
肺の中の空気が全部抜けた。
「がっ……」
血を吐く。
痛い。
怖い。
もう十分だった。
ルクスは初めて理解する。
これは訓練じゃない。
本物の戦いだ。
本当に死ぬ。
そう思った時。
遠くからドクの声が聞こえた。
「ルクス!」
その声に。
ルクスは顔を上げた。
面白ければブックマーク評価お願いします




