「飛び出した理由」
「ルクス!」
誰かが叫んだ。
だがルクスは気付けば走り出していた。自分でも理由は分からない。ただ先輩達が死んでいく光景を見ていられなかった。
隊員達が驚く。新人が飛び出した。しかも相手は先輩達を一方的に殺している怪物だった。誰もが無謀だと思った。
レグルスも振り返る。
「馬鹿野郎!」
怒鳴る。
だがルクスの耳にはほとんど入っていなかった。
怖かった。
本当に怖かった。
身体が震える。
呼吸も乱れる。
足だって止まりそうだった。
ルクスはヒーローじゃない。
正義感の強い人間でもない。
数日前まで人を見下していたような人間だ。
だから思った。
なんで俺が行かなきゃいけないんだ。
なんで俺が戦わなきゃいけないんだ。
死にたくない。
本気でそう思った。
それでも。
ドクの顔が浮かぶ。
レグルスの顔が浮かぶ。
さっきまで笑っていた先輩達の顔が浮かぶ。
ルクスは歯を食いしばった。
「くそっ……」
弱音が漏れる。
「無理だろこんなの……」
目の前には怪物がいる。
雷を落とし。
台風を操り。
人を簡単に殺す化け物が。
勝てるわけがない。
ルクス自身が一番そう思っていた。
その時だった。
ゼルクロノスがルクスを見る。
巨大な結晶の頭部がゆっくり傾く。
まるで小動物でも見るように。
ルクスは背筋が凍った。
次の瞬間。
雷が落ちる。
轟音。
白い閃光。
地面が吹き飛ぶ。
ルクスは反射的に身体を丸めた。
死んだ。
そう思った。
だが。
痛みは来なかった。
煙の中でルクスは立っていた。
生きている。
ルクス自身が一番驚いていた。
何が起きたのか分からない。
ただ本能で能力を使った。
全身へ回転を流した。
腕へ。
脚へ。
骨へ。
身体中へ。
その結果。
雷の衝撃が全身へ分散された。
偶然だった。
無意識だった。
狙ったわけではない。
レグルスも驚く。
ドクも目を見開く。
幹部達も言葉を失う。
誰も知らなかった。
ルクスがそんな使い方をできることを。
ルクス自身すら知らなかった。
そして。
ゼルクロノスの動きが止まる。
初めて興味を持ったようだった。
ルクスを見る。
じっと。
観察するように。
ルクスは冷や汗を流した。
全然勝てる気がしない。
今すぐ逃げたい。
レグルスの命令通り見学していた方が良かったんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎる。
だけど。
今さら戻れなかった。
だから震える足を無理やり前へ出す。
そして小さな声で呟いた。
「頼むから……帰ってくれよ……」
それは挑発でも覚悟の言葉でもなかった。
ただの本音だった。
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