「産声」
小さな家だった。
裕福でもない。
貧しくもない。
どこにでもある普通の家。
その日。
一人の女の子が生まれた。
元気な産声だった。
父親は泣きながら喜ぶ。
母親も微笑んでいた。
幸せな時間だった。
だが。
その幸せは長く続かなかった。
父親はふと母親を見る。
様子がおかしい。
顔色が悪い。
呼吸も弱い。
母親の能力は花だった。
身体そのものが花に近い体質になる能力。
花は水が必要だ。
だが与えすぎれば腐る。
能力にも相性があった。
そして。
生まれた赤子の能力は毒だった。
産まれた瞬間から微量の毒を放出していた。
母親は気付いていた。
身体が少しずつ弱っていくことに。
花が枯れるように。
ゆっくりと。
確実に。
父親が駆け寄る。
「おい!」
返事は無い。
母親は微笑んだまま。
動かなくなっていた。
父親の思考は止まる。
理解できない。
さっきまで笑っていた。
さっきまで生きていた。
それなのに。
目の前には冷たくなった妻がいる。
父親は震える手で赤子を見る。
そこには何も知らない少女がいた。
泣いているだけの。
小さな命だった。
父親は涙を流す。
怒りでもない。
憎しみでもない。
絶望だった。
何もかも失った絶望。
父親はその場で刃物を取る。
そして。
誰も止める者はいなかった。
家には。
赤子だけが残された。
後に少女は施設へ送られる。
名前を与えられた。
ドク。
毒と。
死神を連想させるドクロ。
その二つから付けられた名前だった。
ドクは知らない。
自分が生まれた日に何が起きたのかを。
ただ。
周囲の大人達が自分を見る目だけは。
どこか怯えていた。
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