「アナザーストーリー」
そこには一人の少年がいた。
その名はルクス。
誰から見ても問題児だった。
列には並ばない。
勉強の遅い生徒を馬鹿にする。
自分より弱い人間をこき使う。
傲慢。
その言葉が一番似合う少年だった。
ルクスは名家に生まれた。
裕福な家庭。
将来を約束された人生。
だが。
それを壊したのはルクス自身だった。
能力。
回転。
物を回転させる能力。
戦闘向きではない。
だが便利だった。
便利だからこそ悪用した。
落ちている財布に回転を仕込む。
拾った人が驚くのを見て笑う。
通行人を回転させて転ばせる。
人が困る姿を見て楽しむ。
そんな毎日だった。
誰も注意できなかった。
名家の息子だから。
能力者だから。
周囲は見て見ぬふりをした。
そして。
事件は起きた。
ルクスは車に能力を使った。
ただの悪戯だった。
そのつもりだった。
だが。
回転した車は制御を失う。
歩道へ突っ込む。
悲鳴が響く。
人が死んだ。
一人だった。
たった一人。
だが。
十分だった。
その日から全てが変わる。
家から追い出された。
親は涙を流した。
だが庇わなかった。
庇えなかった。
ルクスは逮捕された。
能力悪用。
それだけなら軽罪だった。
しかし。
能力悪用による殺人。
超重犯罪。
最悪の場合。
永遠に苦しみ続ける刑。
あるいは死刑。
ルクスは初めて恐怖を知った。
自分がやったことの重さを。
そして。
警察署で一人の男と出会う。
「ルクス君」
男は穏やかだった。
警察官だった。
名前はレグルス。
ルクスは黙って睨む。
レグルスは構わず続ける。
「君を救う方法が一つだけある」
その言葉にルクスは顔を上げた。
救う。
そんな言葉を掛けられるとは思っていなかった。
「国家特務厳重機関デヴァイス」
聞いたこともない名前だった。
レグルスは説明する。
表向きは受刑者。
世界にはそう発表される。
だが実際は違う。
宇宙から地球を守る特殊組織。
危険な任務ばかり。
そして所属しているのは犯罪者達。
超重犯罪者達だった。
「そこへ行け」
レグルスは言った。
ルクスは即答した。
「嫌だ」
当然だった。
誰が好き好んでそんな場所へ行く。
だが現実は甘くなかった。
ニュースは毎日ルクスを報道していた。
被害者遺族への賠償。
一億五百万円。
家の評判は地に落ちた。
友人も消えた。
味方はいなかった。
そして。
ルクスはデヴァイスへ送られた。
巨大な施設だった。
まるで監獄。
まるで要塞。
そこには犯罪者しかいない。
笑いながら人を殺した者。
国家転覆を企てた者。
能力で都市を壊した者。
まともな人間は一人もいなかった。
そう思っていた。
「君がルクス?」
声がした。
振り向く。
一人の少女だった。
同い年くらい。
十五歳。
優しそうな笑顔だった。
「私はドク」
少女はそう言った。
不思議な子だった。
この場所に似合わない。
初めてだった。
こんな風に話しかけられたのは。
気付けば二人は一緒に行動するようになっていた。
ルクスは戸惑った。
そして。
少しずつ惹かれていった。
初恋だった。
ある日。
ルクスは気になっていたことを聞く。
「なんでここにいるんだ」
ドクは少し黙る。
そして笑った。
寂しそうに。
悲しそうに。
「運が悪かっただけだよ」
それ以上は語らなかった。
ルクスも聞かなかった。
だが。
その言葉だけが妙に心に残った。
デヴァイスでの生活が始まる。
そしてルクスはまだ知らない。
この施設が。
自分の人生を大きく変えることになるのを。
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