「結婚記念日」
レグルスは幸せだった。
心の底から。
そう思えていた。
今日は結婚記念日だったからだ。
窓の外を見る。
青空が広がっている。
平和な世界だった。
かつての戦争が嘘のように。
レグルスは小さく笑う。
相手は一般人だった。
能力者でもない。
英雄でもない。
ただの女性。
だけど。
それが良かった。
レグルスにとっては。
普通が一番難しかったから。
普通に笑うこと。
普通に生きること。
普通に誰かを愛すること。
それをようやく手に入れられた。
決戦の後。
全てが終わった。
世界は救われた。
そしてレグルスは最後に能力を使った。
この宇宙と失われたものの世界を繋げたのだ。
失われた命。
壊れた街。
崩壊した文明。
全てを繋げて戻した。
完全ではない。
だが。
人々は帰ってきた。
街も戻った。
そして。
ルカも。
帰ってきた。
最初は何を話せばいいのか分からなかった。
長い時間が空いていた。
伝えたいことは沢山ある。
なのに言葉が出ない。
沈黙だけが流れた。
そして。
レグルスが最初に言った言葉は。
「俺、猫飼ってるよ」
だった。
ルカは一瞬固まった。
次の瞬間。
吹き出した。
笑いながら言う。
「何それ」
レグルスも笑った。
自分でも分からなかった。
なぜ最初にそんなことを言ったのか。
だけど。
それで良かった。
そこから少しずつ話した。
昔のこと。
今のこと。
夢のこと。
猫のこと。
どうでもいい話ばかりだった。
だけど楽しかった。
二人は少しずつ。
失われた時間を埋めていった。
ラモンも帰った。
過去の世界へ。
本来いるべき場所へ。
そこでゼルクロノスと再会した。
今のラモンは元に戻っている。
あの悲惨な未来は存在しない。
だから笑えた。
だから前へ進めた。
そして二人は故郷へ帰った。
だが。
彼らの物語は終わっていない。
星の住民達との問題が残っている。
和解できるのか。
受け入れてもらえるのか。
まだ分からない。
けれど。
それは彼ら自身が乗り越えるべき試練だった。
また別の物語。
また別の冒険。
レグルスは空を見上げる。
平和な空だった。
隣には妻がいる。
友達もいる。
守りたかったものがある。
昔の自分なら信じられなかっただろう。
それでも今は胸を張って言える。
幸せだと。
心から。
そう思えた。




