「狂乱の霧再び」
五十万回。
ゼルクロノスだけが積み重ねた時間だった。
レグルスは知らない。
ラモンも知らない。
観察層も知らない。
この戦いが既に五十万回繰り返されていることを。
ゼルクロノスは静かに前へ出る。
いつもと違う。
レグルスも気付いた。
「何かあったのか」
ゼルクロノスは少しだけ笑う。
「いや」
「思い出しただけだ」
そう言って空を見上げる。
上位宇宙。
観察層。
その遥か向こうまで見つめる。
そして。
両腕を広げた。
次の瞬間。
黒い霧が発生する。
最初は少量だった。
だが増える。
増え続ける。
空を埋める。
宇宙を埋める。
星々の間を流れる。
観察層の都市へ侵入する。
軍事基地へ侵入する。
研究施設へ侵入する。
誰も止められない。
レグルスは息を呑む。
「何だこれは」
ゼルクロノスは答える。
「狂乱の霧」
その名前を聞いた瞬間。
ラモンの表情も変わる。
知らない能力だった。
ゼルクロノスは続ける。
「昔使っていた能力だ」
霧は広がる。
さらに広がる。
観察層全域を覆う。
そして。
変化が始まった。
兵士の一人が突然叫ぶ。
仲間へ銃を向ける。
発砲。
悲鳴。
別の場所でも同じだった。
殴り合う。
撃ち合う。
壊し合う。
都市全体が混乱へ包まれる。
観察層の人間達は正気を失っていた。
理性が崩壊している。
誰が敵で。
誰が味方なのか。
分からなくなっていた。
会議室でも同じだった。
処分派同士が争い始める。
職員同士が殴り合う。
命令系統が崩壊する。
観察層そのものが機能停止していく。
レグルスは呆然としていた。
ゼルクロノスは静かに言う。
「ようやく見つけた」
「五十万回の果てにな」
そして振り返る。
その視線はレグルスへ向いていた。
「今だ」
レグルスは一瞬で理解した。
考えるより先に身体が動く。
ラモンも同じだった。
三人は同時に能力を発動する。
ラモンの無限回転。
レグルスの弾く力。
二つが繋がる。
巨大な渦が発生する。
観察層全体を包み込むほどの。
終わりの無い回転。
そこへレグルスが力を流し込む。
弾く。
命を。
存在を。
世界の外へ。
観察層の人間達が吸い込まれる。
無限回転へ。
そして弾かれる。
宇宙の外へ。
だが終わらない。
弾かれた先で再び回転に捕まる。
また吸い込まれる。
また弾かれる。
永遠だった。
脱出は不可能。
終わりも無い。
観察層は崩壊する。
軍隊も。
研究者も。
処分派も。
消えていく。
その中で。
反対派の男だけは静かに三人を見ていた。
そして。
小さく笑う。
どこか安心したように。
長い長い戦いが。
ようやく終わろうとしていた。
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