「五十万回」
ゼルクロノスの右腕が振り下ろされる。
超重力が会議室を押し潰す。
処分派の男達は逃げる暇も無かった。
建物が崩壊する。
端末も砕け散る。
ゼルクロノスは息を吐いた。
間に合った。
そう思った。
だが。
次の瞬間だった。
世界が白く染まる。
ゼルクロノスの表情が固まる。
「……またか」
誰にも聞こえない声だった。
遠く。
別の施設。
別の場所。
予備のリセットボタンが押されたのだ。
世界が崩れ始める。
空が砕ける。
星が割れる。
宇宙が壊れる。
そして。
ゼルクロノスは自ら胸を貫いた。
死。
その瞬間。
世界は再び一巡する。
気付くのはゼルクロノスだけだった。
また戻った。
少し前へ。
また戦場。
またレグルス。
またラモン。
また観察層。
全部同じだった。
ゼルクロノスは歯を食いしばる。
今度は別の施設へ向かう。
リセットボタンを破壊する。
成功した。
だが。
別の誰かが押した。
失敗。
また死ぬ。
また戻る。
また挑む。
また失敗する。
また戻る。
また。
また。
また。
時間の感覚は消えていった。
何回目なのかも分からなくなる。
百回。
千回。
一万回。
十万回。
世界は何度も壊れた。
レグルスは何度も死んだ。
ラモンも何度も死んだ。
地球も。
宇宙も。
何度も消えた。
だが。
覚えているのはゼルクロノスだけだった。
孤独だった。
あまりにも。
誰にも話せない。
話しても覚えていない。
自分だけが積み重ねる。
自分だけが失っていく。
そして。
五十万回目。
ゼルクロノスは膝をついた。
疲れていた。
肉体ではない。
心が。
限界だった。
死ぬことは怖くない。
四万年も生きた。
今さらだ。
だが。
仲間が死ぬのは嫌だった。
レグルスが死ぬ。
ラモンが死ぬ。
世界が壊れる。
それを五十万回見続けた。
何度も。
何度も。
何度も。
ゼルクロノスは拳を握る。
その時だった。
脳裏に一つの記憶が浮かぶ。
昔
星を支配していた頃。
恐れられていた頃。
自分が使っていた能力。
忘れていた能力。
ゼルクロノスはゆっくり立ち上がる。
そして笑った。
「そうか」
「まだあったな」
レグルスが不思議そうに見る。
「何がだ?」
ゼルクロノスは答えない。
空を見上げる。
観察層。
上位宇宙。
その全てを見据える。
五十万回の失敗。
五十万回の絶望。
その果てに。
ようやく一つの答えへ辿り着いた。
「次で終わらせる」
その声は静かだった。
だが。
確かな自信があった。
長すぎる地獄の果てに。
ゼルクロノスは勝つための手段を思い出していた。
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