「一巡」
レグルスは走っていた。
観察層の都市を。
敵を弾きながら。
戦い続けていた。
ゼルクロノスもいる。
ラモンもいる。
世界も壊れていない。
何もかもが普通だった。
だが。
ゼルクロノスだけが立ち止まる。
「……戻ったのか」
誰にも聞こえない声だった。
死んだ瞬間。
世界は一巡した。
そして少し前へ戻った。
誰も気付いていない。
レグルスも。
ラモンも。
観察層の人間達も。
自分以外は。
誰一人。
ゼルクロノスは空を見上げる。
先程見た未来を思い出す。
リセットボタン。
崩壊する宇宙。
絶望するレグルス。
全て覚えていた。
だから理解した。
あれを使わせたら終わりだ。
何としても阻止しなければならない。
「どうした?」
レグルスが振り返る。
ゼルクロノスは首を振る。
「何でもない」
そう答える。
説明しても信じない。
説明する時間も無い。
だから動く。
ゼルクロノスは一人で前へ出た。
ブラックホールを発生させる。
艦隊を潰す。
施設を破壊する。
観察層の人類は混乱する。
先程より動きが速い。
先程より正確だ。
まるで未来を知っているみたいに。
当然だった。
知っているのだから。
ゼルクロノスは一直線に進む。
リセットボタンの場所へ。
だが。
辿り着く前に。
数万の兵士が立ちはだかる。
超重力で潰す。
ブラックホールで飲み込む。
それでも多い。
終わりが見えない。
ゼルクロノスは舌打ちする。
間に合わない。
そう判断した瞬間だった。
遠くから声が響く。
「おい!」
レグルスだった。
敵軍を吹き飛ばしながら駆けてくる。
ラモンもいる。
二人とも事情を知らない。
それでも。
仲間が苦戦していると判断した。
ただそれだけだった。
「何してる!」
レグルスが叫ぶ。
ゼルクロノスは少しだけ笑う。
「ちょっと急ぎの用事だ」
ラモンは呆れた顔をする。
「説明になってねえよ」
そして三人で前進する。
戦場を切り裂く。
観察層の軍勢が次々と崩れていく。
だが。
ゼルクロノスの表情だけは変わらない。
焦っていた。
もし間に合わなければ。
また世界は壊れる。
また全員死ぬ。
また自分だけが覚えている。
その未来だけは嫌だった。
数分後。
観察層中央施設。
処分派の会議室。
職員が叫ぶ。
「侵入されます!」
「防衛線突破!」
処分派の男は歯を食いしばる。
予定より早い。
だが。
まだ間に合う。
男は端末へ手を伸ばした。
その画面に表示されている。
リセットボタン。
世界を初期化する禁断の兵器。
男は迷わない。
指を伸ばす。
その瞬間。
会議室の壁が吹き飛んだ。
超重力だった。
ゼルクロノスが現れる。
処分派の男は目を見開く。
「なぜここが!」
ゼルクロノスは答えない。
知っているからだ。
一度見た未来だから。
その事実を知るのは自分だけだった。
そして。
ゼルクロノスは静かに右腕を上げた。
男の顔から血の気が引いていく。
絶対に押させない。
その意思だけが。
ゼルクロノスの瞳に宿っていた。
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