「観察層」
レグルスの意識は記憶の奥深くへ沈んでいた。
過去へ続く道は完成している。
だが身体が動かない。
ラモンの姿。
実験という真実。
その全てが重すぎた。
そして再び景色が変わる。
白い世界だった。
どこまでも白い。
床も壁も天井も白い。
そこに無数の机が並んでいた。
人々が座っている。
男も女もいる。
老人も若者もいる。
誰も普通だった。
特別な姿ではない。
神々しい見た目でもない。
本当に普通の人間だった。
だが。
彼らの前には巨大な画面が並んでいる。
その画面には宇宙が映っていた。
銀河。
星々。
文明。
生命。
戦争。
滅亡。
全て。
レグルス達の世界も映っている。
まるで観察日記だった。
一人の男が飲み物を飲みながら言う。
「ゼルクロノスの成長率が想定値を超えています」
別の女が答える。
「レグルスも同様です」
「危険領域へ到達しています」
会話は淡々としていた。
そこに感情はない。
まるで数字の報告だった。
レグルスは拳を握る。
ゼルクロノスも。
ルカも。
ルクスも。
みんな生きている。
なのに。
彼らにとっては数字だった。
その時。
一人の男が立ち上がる。
レグルスは目を見開いた。
さっき見た男だった。
ゼルクロノスと話していた上位存在。
あの反対派の男。
男は周囲を睨む。
「だから言っただろう」
会議室が静かになる。
「お前達は何も分かっていない」
誰も反論しない。
男は続ける。
「勝手に命を作った」
「勝手に世界を作った」
「そして超えられそうになったら消す」
「それがお前達の正義か」
空気が張り詰める。
別の男が立ち上がる。
「危険だからだ」
「彼らは進化し過ぎた」
「このままでは観察層へ到達する」
「我々を超える可能性がある」
反対派の男は笑った。
呆れたように。
「つまり怖いだけだろ」
誰も答えない。
沈黙が流れる。
レグルスは理解した。
彼らは神ではない。
ただの人間だ。
力を持っただけの。
技術を持っただけの。
だから恐れる。
だから消そうとする。
その時だった。
警報が鳴る。
赤い光が部屋を照らす。
観察層の人々が慌て始める。
「異常発生」
「異常発生」
機械音声が響く。
一人が叫ぶ。
「どうした!」
すぐに返答が来る。
「観察対象が記憶領域へ侵入」
「観察層の情報へ接触しています」
部屋が騒然となる。
「誰だ」
「どの個体だ」
「ありえない」
画面が切り替わる。
そこに映っていたのは。
レグルスだった。
観察層の人間達が息を呑む。
一人が青ざめる。
「まさか……」
別の者が言う。
「ここまで来るとは」
レグルスは画面越しに彼らを見ていた。
向こうもこちらを見ている。
観察する者。
観察される者。
初めて両者の視線が交わる。
その瞬間だった。
処分派の一人が立ち上がる。
「もう限界です」
「計画を前倒しにします」
反対派の男が睨む。
「待て」
だが処分派は止まらない。
「待てません」
「ゼルクロノス」
「ルクス」
「レグルス」
「全て危険領域です」
「これ以上成長する前に終わらせるべきです」
会議室がざわめく。
そして。
一つの言葉が出る。
それは誰も口にしたくなかった言葉だった。
「世界のリセットを提案します」
レグルスの瞳が揺れる。
何を言われたのか理解できなかった。
だが。
観察層の人間達の表情は本気だった。
彼らは本当に。
世界そのものを消そうとしていた。
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