「空白の先」
過去へ繋がる道が完成しつつあった。
だがその前に。
レグルスの意識へ大量の記憶が流れ込む。
ゼルクロノスの記憶。
四万年という長すぎる人生。
数え切れない戦い。
数え切れない別れ。
レグルスは歯を食いしばる。
意識が潰されそうだった。
普通の人間なら一瞬で壊れている。
それほど膨大な情報だった。
そして。
ある瞬間。
景色が変わった。
宇宙ではない。
別の場所。
巨大な建造物だった。
そこには無数の人間がいた。
見た目は普通だった。
特別な力を持っているようには見えない。
だが。
彼らは宇宙を見下ろしていた。
モニターのようなものに映る世界。
そこにはレグルス達の宇宙が映っている。
ルクスも。
ルカも。
ゼルクロノスも。
全て。
まるで観察対象だった。
レグルスの背筋が凍る。
会話が聞こえる。
「成長速度が予測を超えています」
「危険領域です」
「消去を提案します」
「今のうちに処分した方がいいでしょう」
何を言っているのか。
理解したくなかった。
だが理解できてしまった。
彼らは。
自分達を作った側だった。
そして。
消そうとしている側だった。
レグルスの拳が震える。
怒りだった。
その時。
別の声が響く。
「ふざけるな」
空気が変わった。
一人の男が立ち上がる。
「勝手に作ったのは我々だ」
「生まれた以上、彼らは生きている」
「超えられそうだから消す?」
「そんな身勝手が許されるか」
会議室が静まり返る。
男は睨みつけていた。
周囲を。
上位存在達を。
レグルスは驚く。
味方がいた。
上位存在にも。
全員が敵ではなかった。
そして。
記憶はさらに進む。
薄暗い部屋。
そこにはゼルクロノスがいた。
向かいには先程の男。
二人は話していた。
男は言う。
「君達は悪くない」
「悪いのは我々だ」
ゼルクロノスは黙って聞いている。
だがその表情は暗かった。
まるで何かを失った人間の顔だった。
そして。
レグルスは次の記憶を見る。
そこで。
呼吸が止まった。
そこにいたのはラモンだった。
いや。
ラモンだったもの。
四肢は無い。
腕も脚も無い。
口元は溶けている。
歯だけが剥き出しになっていた。
皮膚も崩れている。
なのに。
生きている。
生かされている。
レグルスは震えた。
理解したくなかった。
あの英雄が。
あのラモンが。
こんな姿になっているなんて。
記憶の中の上位存在は悪意が無かった。
むしろ助けようとしていた。
死なせたくなかった。
だから生かした。
だが。
結果は違った。
ラモンは苦しみ続けていた。
終わりの無い苦しみだった。
レグルスは膝をつく。
吐き気がした。
頭が痛い。
胸が苦しい。
そして理解する。
なぜゼルクロノスの記憶が空白だったのか。
なぜ思い出せなかったのか。
認められなかったのだ。
自分達が実験だったことを。
ラモンの末路を。
全部。
だから脳が拒絶した。
だから記憶が消えた。
空白になった。
レグルスの呼吸が乱れる。
精神が限界へ近付いていた。
その様子を見て。
ゼルクロノスが眉をひそめる。
「どうした」
レグルスは答えない。
答えられない。
ゼルクロノスはさらに言う。
「何を見た」
その声には警戒が混じっていた。
レグルスは顔を上げる。
ゼルクロノスを見る。
だが何も言えなかった。
言葉にした瞬間。
自分まで壊れてしまいそうだった。
そしてその時。
二人の間に巨大な光の道が現れる。
過去へ続く道。
レグルスが作り上げた最後の手段。
ゼルクロノスを帰すための道だった。
しかし。
レグルスの精神は既に限界へ達していた。
真実は。
あまりにも残酷だった。
面白ければブックマーク、評価お願いします




