「失われた星」
怪物との戦いから数年が経った。
ラモンは英雄になっていた。
カプ星中の誰もがその名を知っている。
街には銅像が建てられた。
歌が作られた。
物語が作られた。
子供達は英雄に憧れた。
だが。
英雄本人は幸せではなかった。
ラモンは痩せていた。
頬はこけている。
腕も細い。
呼吸も苦しい。
無限回転の代償は消えなかった。
むしろ年々酷くなっていた。
命延命装置がなければ生きていけない。
そんな身体になっていた。
それでも。
人々はラモンを求めた。
怪物が現れればラモン。
災害が起こればラモン。
紛争が起こればラモン。
誰もが頼った。
誰もが期待した。
そして。
誰もラモンの苦しみに気付こうとしなかった。
森の中。
レジェンドは静かに言った。
「もうやめろ」
ラモンは振り返る。
黄金の装甲を纏った師匠が立っていた。
「お前は十分戦った」
「もう誰にも何も返す必要はない」
風が吹く。
木々が揺れる。
レジェンドは続けた。
「森へ来い」
「昔みたいに暮らそう」
「誰も来ない場所で」
「二人でな」
ラモンは黙った。
本当は嬉しかった。
本当は行きたかった。
もう疲れていた。
戦うのも。
期待されるのも。
英雄でいるのも。
全部。
疲れていた。
だが。
首を横に振る。
「できません」
レジェンドの七つの眼が細まる。
ラモンは笑った。
少しだけ。
寂しそうに。
「師匠に迷惑をかけたくないんです」
「俺は大丈夫です」
嘘だった。
大丈夫ではない。
自分でも分かっていた。
だがレジェンドを巻き込みたくなかった。
だから笑った。
レジェンドは何も言わなかった。
言えなかった。
弟子が決めたことだった。
二人はその日別れた。
それが最後だった。
数か月後。
カプ星で戦争が始まる。
小さな争いだった。
最初は。
資源。
領土。
思想。
くだらない理由だった。
だが止まらなかった。
国同士が争う。
種族同士が争う。
昨日まで笑い合っていた者達が殺し合う。
星全体へ広がっていく。
ラモンは止めようとした。
何度も。
何度も。
だが無理だった。
一つを止めれば別の場所で始まる。
終わらない。
人々は英雄を求めた。
ラモンは応えた。
身体を削って。
命を削って。
それでも。
止まらなかった。
やがて。
星は限界を迎える。
大地が裂ける。
海が燃える。
空が黒く染まる。
文明が崩壊する。
そして。
カプ星は滅んだ。
レジェンドは山の上からその光景を見ていた。
何も言わない。
何もできなかった。
守りたかった星だった。
愛した故郷だった。
そして。
弟子が生きているのか。
死んでいるのか。
それすら分からなかった。
ラモンは見つからなかった。
痕跡も。
死体も。
何も残っていなかった。
風が吹く。
灰が舞う。
レジェンドは静かに背を向けた。
そして旅へ出る。
誰もいなくなった星を後にして。
広い宇宙へ。
長い時間が流れた。
百年。
二百年。
三百年。
レジェンドは宇宙を見た。
滅びる星を見た。
争いを見た。
救いを求める者達を見た。
そして考えるようになった。
支配した方がいいのではないかと。
誰かが導かなければ。
また同じことが起きる。
また星が滅ぶ。
また誰かが犠牲になる。
だからこそ。
自分が支配するべきなのではないか。
そう悩み続けていた。
だが。
そこで記憶が途切れる。
何かがあった。
確かに。
何かを見た。
何かと会った。
何かを知った。
だが思い出せない。
空白だった。
ただ時間だけが過ぎていた。
レジェンドの記憶には残らなかった。
脳が情報を拒絶したのだ。
思い出してはいけない何かを。
受け入れられない何かを。
だから忘れた。
完全に。
そして。
長い空白の果てに。
レジェンドは別の名で呼ばれるようになる。
ゼルクロノス。
それが後に宇宙を揺るがす存在となる男の名だった。
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