「死に進む者」
ラモンの視界には一本の線が見えていた。
巨大な眼の中心。
そこだけが世界の流れから外れている。
回転していない。
循環していない。
まるで世界に空いた穴だった。
ラモンはその一点から目を離せなかった。
一方でレジェンドは怪物を見据えていた。
七つの眼が静かに細まる。
「まずは確かめる」
その声と同時に六本の腕を広げる。
「ドミニオンオーバーヘブン」
天地が反転する。
空が地となり。
大地が空となる。
山脈が持ち上がる。
海が裂ける。
世界そのものが怪物へ襲いかかった。
しかし。
巨大な眼は動かない。
見つめるだけだった。
次の瞬間。
山脈が消えた。
海が消えた。
巻き込まれた空間ごと消滅する。
レジェンドは表情を変えない。
続けて放つ。
「アビリティブレイク」
能力破り。
あらゆる能力を崩壊させる力。
見えない波動が怪物へ到達する。
だが何も起きない。
効いていない。
まるで存在する世界そのものが違うかのようだった。
レジェンドはさらに踏み込む。
「ディザスターデコンポーズ」
黄金の光が放たれる。
認識した対象を量子レベルで分解する能力。
怪物の身体が崩れ始める。
黒い表面が粒子へ変わる。
王都から歓声が上がる。
だが。
次の瞬間。
全てが元へ戻った。
崩壊した部分が再生したのではない。
最初から傷一つなかったかのように。
レジェンドの七つの眼が細まる。
その時だった。
巨大な眼が開く。
黒い光が放たれる。
レジェンドは回避する。
翼を広げ空へ飛ぶ。
だが。
光が追ってきた。
速い。
避けられない。
轟音。
レジェンドの身体が消滅した。
そして。
世界が白く染まる。
空が消える。
大地が消える。
海が消える。
王都が消える。
星が消える。
全てが白へ溶けていく。
世界が一巡する。
―――。
気付けば数秒前だった。
怪物はまだ攻撃していない。
ラモンも無事だ。
王都も存在している。
覚えているのはレジェンドだけ。
死に進む。
死によって未来の情報を持ち帰る能力。
レジェンドは静かに息を吐く。
「なるほど」
再び前へ出る。
今度は違う角度へ飛ぶ。
巨大な眼が開く。
黒い光。
回避。
追尾。
死亡。
世界が白く染まる。
空が消える。
星が消える。
世界が一巡する。
―――。
再び数秒前。
三回目。
死亡。
四回目。
死亡。
五回目。
死亡。
六回目。
死亡。
世界が何度も終わる。
空が砕ける。
海が消える。
大地が崩れる。
全てを何度も見た。
そして七回目。
レジェンドは気付く。
黒い光が放たれる瞬間。
怪物の中心。
巨大な眼の奥。
そこだけが揺らぐ。
本当に一瞬だけ。
レジェンドは目を細める。
さらに死ぬ。
八回目。
九回目。
十回目。
確認する。
間違いない。
そこだけだ。
そこだけが不完全。
そしてその場所は。
ラモンが見ていた場所と同じだった。
レジェンドは振り返る。
ラモンはまだ気付いていない。
だが見えている。
無意識に。
確実に。
レジェンドには見抜けないものを。
その時。
巨大な眼が再び開く。
黒い光が集まり始める。
レジェンドは前へ出る。
六本の腕を広げる。
今度は勝つためではない。
弟子へ繋ぐためだ。
「ラモン」
低い声が響く。
ラモンが振り向く。
レジェンドは笑っていた。
「お前の目は正しい」
ラモンの瞳が揺れる。
巨大な眼の中心。
世界から外れた一点。
そこだけが今も静かに存在していた。
そして。
怪物の黒い光が放たれた。
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