「存在しない世界の戦い」
世界へ走る亀裂が大きく広がった。
パキッ。
乾いた音が響く。
静止しているはずの世界で。
あり得ない音だった。
ジークテンポラーはその音を聞いていた。
そして理解できなかった。
時の核が揺れている。
四百年前。
星を滅ぼした時も。
数え切れない戦場でも。
こんなことは一度もなかった。
ラモンはゆっくりと右腕を動かす。
重い。
全身に山が乗っているようだった。
それでも動く。
少しずつ。
確実に。
身体の奥では無限回転が続いていた。
止まらない。
終わらない。
時間が存在しなくなっても。
それだけは変わらなかった。
ジークテンポラーは静かに後退する。
その表情から余裕が消え始めていた。
「なぜだ……」
思わず声が漏れる。
「時の核の中だぞ……」
ラモンは答えない。
答えられない。
今は話す余裕すらなかった。
動くことだけで精一杯だった。
指先。
手首。
肘。
少しずつ自由を取り戻していく。
その度に世界へ走る亀裂が増えていく。
空が軋む。
大地が震える。
静止した世界そのものが悲鳴を上げていた。
ジークテンポラーは再び砲撃を放つ。
黒い閃光。
静止世界でも放てる特殊な攻撃。
光がラモンへ迫る。
ラモンは避けられない。
まだ身体は完全には動かない。
だが。
黒い光は頬を掠めただけだった。
僅かに首が動いたのだ。
ジークテンポラーの瞳が揺れる。
偶然ではない。
今のは確実に避けた。
ラモンも理解していた。
動ける範囲が広がっている。
無限回転が。
静止した世界を押し返している。
少しずつ。
本当に少しずつ。
ラモンは膝へ力を入れる。
立ち上がろうとする。
身体が悲鳴を上げる。
それでも止めない。
何度倒れても立ち上がってきた。
今回も同じだった。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
ラモンの右脚が前へ出る。
静止世界の中で。
最初の一歩だった。
その瞬間。
世界中へ亀裂が走る。
空が割れる。
大地が割れる。
止まった雲が砕け散る。
まるでガラス細工だった。
ジークテンポラーは息を呑む。
信じられなかった。
時の核が壊れ始めている。
自分の絶対が。
崩れ始めている。
ラモンは二歩目を踏み出す。
さらに亀裂が広がる。
三歩目。
静止していた空気が僅かに揺れる。
そして。
四歩目を踏み出した瞬間だった。
パリン――。
どこかで何かが砕ける音が響く。
次の瞬間。
止まっていた風が動いた。
本当に微かに。
だが確かに。
ジークテンポラーの表情から血の気が引く。
四百年間。
誰もできなかったこと。
それを目の前の少年がやろうとしている。
そして遠く。
完全に静止していたレジェンドの翼が。
僅かに震えた。
静止世界が。
終わりを迎えようとしていた。
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