「最初の一歩」
静止した世界の中で。
ラモンの人差し指が再び動いた。
本当に僅かだった。
瞬きをすれば見逃すほど小さな動き。
だがジークテンポラーは見逃さなかった。
顔から余裕が消える。
「あり得ん……」
時の核。
それは時間停止ではない。
時間そのものを消し去る力だ。
動くという概念すら存在しない世界。
その中で。
ラモンは確かに動いた。
ラモン自身も驚いていた。
身体は相変わらず重い。
腕も脚も動かない。
呼吸している感覚すらない。
だが身体の奥だけは違った。
回転している。
ゆっくりと。
静かに。
しかし確実に。
無限回転だけが存在していた。
ラモンは目を閉じる。
何故動けたのか。
考える。
答えは分からない。
だが一つだけ理解できることがあった。
無限回転は時間に依存していない。
時間が流れているから回るのではない。
回っているから回る。
終わらないから終わらない。
それが無限回転だった。
ジークテンポラーは一歩踏み出す。
警戒していた。
今まで感じたことのない不気味さを。
まだ動けるわけではない。
まだ勝負にならない。
それでも怖かった。
目の前の少年が。
「貴様は何なんだ」
返事はない。
ラモンは必死だった。
指先を動かしただけ。
それだけで全力だった。
だが。
諦めるつもりはなかった。
少しずつ。
少しずつ。
身体の奥の回転へ意識を向ける。
すると。
今度は手首が震えた。
本当に僅かに。
だが確実に。
ジークテンポラーの顔色が変わる。
一度なら偶然。
二度なら異常。
三度目は現実だった。
ラモンは動き始めている。
時の核の中で。
本来あり得ないことが起きている。
「消えろ」
ジークテンポラーが叫ぶ。
冷静さを失っていた。
銃口を向ける。
静止世界の中でも放てる特殊な砲撃。
黒い閃光が放たれる。
ラモンへ迫る。
避けられない。
動けない。
直撃する。
そう思われた。
しかし。
ラモンの首が僅かに動いた。
黒い閃光が頬を掠める。
ジークテンポラーが息を呑む。
避けた。
今。
確かに避けた。
ラモン自身も信じられなかった。
偶然ではない。
身体が動いた。
ほんの少しだが。
確かに。
回転が強くなる。
身体の奥で。
魂の中心で。
無限に続く光が少しずつ大きくなっていく。
その時だった。
ラモンは気付く。
静止世界に亀裂が入っている。
最初は一本だった。
だが今は違う。
二本。
三本。
四本。
まるでガラスのように。
世界そのものへひびが広がっている。
原因は一つしかない。
自分だ。
無限回転が。
止まった世界を少しずつ削っている。
ジークテンポラーも気付いた。
だから焦る。
初めて焦った。
四百年前も。
数え切れない戦いでも。
時の核は破られなかった。
それが絶対だった。
それが今。
目の前で崩れ始めている。
ラモンは拳を握ろうとする。
まだ無理だった。
指が少し曲がる程度。
それでも進歩だった。
確実に前へ進んでいる。
そして。
静止したままの空。
静止したままの雲。
静止したままの世界。
その中で。
ラモンの右腕が。
肘まで動いた。
ジークテンポラーの表情が凍り付く。
そしてその瞬間。
世界へ走る亀裂が大きく広がった。
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