「無限回転」
世界から音が消えた。
黒い光とラモンが衝突した瞬間だった。
王都の人々も。
レジェンドも。
ジークテンポラーさえも。
誰もが動きを止める。
何が起きたのか理解できなかった。
ただ一つ分かることがあった。
黒い光が止まっている。
星を滅ぼすはずだった攻撃が。
ラモンの目の前で静止していた。
ジークテンポラーの顔から余裕が消える。
「何をした」
ラモンは答えない。
いや。
答えられなかった。
今のラモンは別のものを見ていた。
身体の奥。
魂の中心。
そこに存在する無限に回り続ける光。
それは今まで感じていた回転の正体だった。
技ではない。
能力でもない。
もっと根源的なもの。
存在そのものだった。
ラモンはようやく理解する。
無限回転とは回転する力ではない。
終わらないという現象そのものなのだ。
だから止まらない。
時間が止まっても。
空間が止まっても。
世界が終わっても。
回転だけは続く。
ラモンの周囲で黄金の粒子が舞う。
黒い光が少しずつ押し返され始める。
ジークテンポラーは信じられなかった。
あり得ない。
あの攻撃は星を滅ぼした。
文明を消した。
英雄達を葬った。
それなのに。
目の前の少年は生きている。
それどころか押し返している。
「ふざけるな!」
巨大時計が激しく回転する。
さらに黒い光が注ぎ込まれる。
だが止まらない。
ラモンも止まらない。
前へ進む。
一歩。
また一歩。
黒い光の中を歩いていく。
全身の皮膚が裂ける。
血が流れる。
骨が軋む。
それでも進む。
不思議と怖くなかった。
心の奥でルクスではない。
レジェンドでもない。
誰かの声が聞こえた気がした。
幼い頃の記憶。
森で転んだ時。
失敗した時。
泣いていた時。
いつも立ち上がった。
理由は簡単だった。
前に進みたかったから。
その想いが回転を加速させる。
ジークテンポラーは後退した。
初めてだった。
本当の恐怖を感じたのは。
目の前の存在は英雄ではない。
怪物でもない。
ただの少年だ。
なのに。
諦めない。
何度倒しても立ち上がる。
その姿が恐ろしかった。
ラモンは拳を握る。
黒い光を突破する。
巨大時計が目の前に見えた。
ジークテンポラーも気付く。
近付かせてはいけない。
時間停止。
世界が止まる。
だが。
ラモンは止まらなかった。
ゆっくりと。
確実に。
前へ進む。
ジークテンポラーの瞳が揺れる。
「なぜだ」
答えは単純だった。
無限回転は止まらない。
だから時間停止も絶対ではない。
ラモンは拳を引く。
今までで一番強く。
今までで一番静かに。
そして。
振り抜いた。
轟音。
巨大時計に亀裂が走る。
空が割れる。
世界が震える。
ジークテンポラーが初めて悲鳴を上げた。
背後の巨大時計に無数の亀裂が広がる。
王都の人々は息を呑む。
レジェンドの七つの眼も見開かれる。
ラモンは知らない。
今、自分が歴史を変えようとしていることを。
そしてジークテンポラーも理解した。
この少年を放置すれば。
いつか自分を超える。
だから次の瞬間。
ジークテンポラーはある決断を下した。
禁じられた最後の手段を。
四百年前ですら使わなかった奥の手を。
巨大時計の中心が割れる。
その奥から現れたものを見て。
初めてレジェンドが叫んだ。
「ラモン!! 離れろ!!」
その声には。
今まで一度も見せたことのない焦りがあった。
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