「届かない壁」
十二本の砲身が空を埋め尽くしていた。そこへ集まるエネルギーは先程までとは比べ物にならない。空気は震え、大地は悲鳴を上げる。山脈の岩肌には無数の亀裂が走り、周囲の生物は本能的に逃げ出していた。ジークテンポラーは本気だった。今までの戦いは遊びに過ぎなかったのだ。
ラモンは汗を流した。
強い。
今まで戦ってきたどの敵よりも。
だが不思議と逃げたいとは思わなかった。
怖い。
それは事実だ。
それでも前に出たいと思った。
守りたいものがあるからだった。
「来い」
ラモンは拳を握る。
ジークテンポラーが笑った。
そして十二本の砲身が同時に発射される。
世界が白く染まった。
光。
ただ光だった。
山脈が消える。
空が裂ける。
地面が蒸発する。
それほどの破壊だった。
王都から見ていた人々も絶望した。
誰も生き残れない。
そう思った。
だが。
光の中でラモンは立っていた。
全身が焼ける。
皮膚が裂ける。
骨が軋む。
それでも倒れない。
身体の奥で回転が続いていた。
終わらない回転。
止まらない回転。
ラモンは必死だった。
どう使えばいいのか分からない。
だから感覚だけで握り続ける。
すると。
砲撃の一部が逸れた。
ほんの少しだけ。
だが確かに。
ジークテンポラーの目が細くなる。
「なるほど」
初めて理解した。
この少年は学んでいる。
戦いながら。
成長している。
だから危険だった。
ジークテンポラーは空へ浮かぶ。
背後の巨大な時計が回転する。
すると周囲の時間が狂い始めた。
ある岩は数千年分風化し。
ある岩は逆に形成前へ戻って消滅する。
時間そのものが暴走していた。
ラモンは息を呑む。
触れれば終わりだ。
そんな予感がした。
「これが私の世界だ」
ジークテンポラーが両腕を広げる。
「この空間では全ての時間が私に従う」
次の瞬間。
ラモンの右腕が急激に老化した。
皮膚がしわだらけになる。
筋肉が痩せる。
ラモンは驚いて飛び退いた。
ジークテンポラーは笑う。
「理解したか」
「お前の未来は私の手の中にある」
圧倒的だった。
力の差ではない。
経験の差。
能力の理解度の差。
ラモンはようやく気付いた。
今の自分ではまだ届かない。
覚醒したばかりの力で勝てるほど甘くない。
だが。
諦めるつもりはなかった。
その時だった。
ラモンの視界にレジェンドの姿が映る。
遠くから見守る師匠。
助けに来ない。
戦わない。
ただ見ている。
その姿を見てラモンは理解した。
信じているのだ。
自分を。
弟子を。
だから手を出さない。
その事実が胸を熱くした。
「まだだ」
ラモンは立ち上がる。
老化した右腕は震えていた。
それでも拳を握る。
「俺はまだ負けてない」
ジークテンポラーは無言だった。
ただ見下ろしている。
まるで結果が決まっているかのように。
その態度が気に入らなかった。
ラモンは一歩踏み出す。
また一歩。
そして走り出した。
無謀だった。
勝算もない。
作戦もない。
それでも進む。
前へ。
ただ前へ。
その瞬間。
身体の奥で回転が強くなった。
今までとは違う。
まるで何かに応えるように。
ラモン自身の意思に。
ジークテンポラーの表情が僅かに変わる。
「……?」
違和感だった。
少年の周囲で。
空間が回っている。
いや。
空間ではない。
時間だった。
ラモンの周囲だけ。
失われた時間が僅かに戻り始めていた。
老化した右腕が少しずつ元へ戻っていく。
ジークテンポラーが初めて驚愕する。
そしてレジェンドは小さく呟いた。
「そうか」
七つの眼が細くなる。
「お前の無限回転は……そういう力か」
ラモン自身はまだ気付いていない。
だが確実に。
無限回転の本質へ近付き始めていた。
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