「無限回転の片鱗」
王都の外れに広がる山脈地帯。その中心でラモンとジークテンポラーは向かい合っていた。遠く離れた王都からも二人の姿が見えるほど異様な空気が漂っている。レジェンドは介入しない。巨大な岩山の上で静かに見守っていた。弟子の戦いだからだ。
「後悔するぞ」
ジークテンポラーが言った。
「英雄が倒せる敵をわざわざ譲った」
ラモンは首を振る。
「違う」
「俺が倒すんだ」
ジークテンポラーは笑った。
その瞬間だった。
時間停止。
世界が再び静止する。
岩が止まる。
風が止まる。
砂塵が止まる。
ラモンの身体も動かなくなる。
ジークテンポラーはゆっくり近付いた。
「やはりまだ未完成か」
先程のようにはいかない。
時間停止を突破できない。
偶然だった。
それが現実だった。
ジークテンポラーは銃口をラモンの額へ向ける。
発射しようとした。
その時だった。
ラモンの脳裏に幼い頃の記憶が浮かぶ。
森だった。
まだ小さかった頃。
レジェンドに教わった言葉。
『力は振るうものじゃない』
『理解するものだ』
その瞬間。
身体の奥で何かが動いた。
ゆっくりと。
確かに。
回転している。
止まらない何か。
ジークテンポラーが違和感を覚える。
「何だ?」
ラモンの周囲の空間が微かに歪んでいた。
ほんの少しだけ。
時間停止にひびが入る。
そして。
指先が動いた。
ジークテンポラーの目が見開かれる。
「馬鹿な」
ラモン自身も驚いていた。
動ける。
完全ではない。
だが動く。
時間停止の中で。
「そうか」
ラモンは初めて気付く。
無限回転は攻撃じゃない。
エネルギーでもない。
回転し続けるという現象そのものだ。
だから止められない。
時間が止まっても。
空間が止まっても。
回転だけは終わらない。
指が動く。
腕が動く。
足が動く。
ゆっくりだが確実に。
ジークテンポラーは後退した。
初めてだった。
恐怖を感じたのは。
そして時間停止を解除する。
世界に音が戻る。
轟音と共にラモンが飛び出した。
拳を振るう。
ジークテンポラーは回避する。
だが以前より速かった。
拳が肩を掠める。
紺色の装甲が砕け散る。
ジークテンポラーは吹き飛んだ。
山へ激突する。
山頂が崩壊した。
ラモンは追撃しない。
呼吸を整えていた。
今の感覚を忘れないために。
まだ掴みきれていない。
だが確かに見えた。
力の正体が。
遠くで見守るレジェンドもそれを感じていた。
七つの眼が細くなる。
「やっと入口か」
四百年前。
自分でも理解できなかった力。
それを弟子が掴み始めている。
レジェンドは少しだけ笑った。
だが。
次の瞬間だった。
山脈が爆発した。
黒い光が天を貫く。
吹き飛ばされたはずのジークテンポラーが立っていた。
いや。
変化していた。
背中から巨大な時計の輪が出現している。
六本だった砲身は十二本へ増えていた。
身体の至る所に時計の針が浮かんでいる。
そして口の管は胸元まで裂けていた。
異形。
まさしく災厄だった。
「認めよう」
ジークテンポラーが言う。
「お前は強い」
空気が震える。
大地が揺れる。
山脈そのものが崩れ始める。
「だから殺す」
その言葉と共に。
十二本の砲身が一斉にラモンへ向いた。
そしてレジェンドですら表情を変えるほどの莫大なエネルギーが集まり始めた。
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