「弟子の戦い」
王都の上空で青白い光が膨れ上がっていた。ジークテンポラーの六本の砲身に莫大なエネルギーが集まっていく。その光だけで空気が震え、大地が軋む。兵士達は絶望していた。誰もが分かっていた。あれが放たれれば王都は消える。何万人もの命が失われる。
ラモンは立っていた。
全身は傷だらけだった。呼吸も苦しい。膝も笑っている。それでも前に出る。逃げるという選択肢はなかった。守ると決めたからだ。師匠が守ってきた世界を。ここに生きる人々を。
「終わりだ」
ジークテンポラーが言う。
その瞬間だった。
空が裂けた。
黄金の閃光が王都へ飛来する。
轟音。
衝撃波。
次の瞬間にはラモンの前に巨大な影が立っていた。
レジェンドだった。
八本の腕。
四本の脚。
二枚の翼。
七つの黄金の眼。
そして全身を覆う黄金装甲。
神話そのものの姿だった。
王都中が静まり返る。
誰もがその姿を見上げていた。
四百年語り継がれた英雄。
ザ・レジェンド。
その本人がそこにいた。
「師匠……」
ラモンが呟く。
レジェンドは振り返らない。
七つの眼はジークテンポラーだけを見ていた。
「十分だ」
低い声が響く。
「よく戦った」
ジークテンポラーは不快そうに目を細める。
「英雄か」
「懐かしいな」
その言葉と共に砲撃が放たれる。
だが。
レジェンドは動かなかった。
巨大な腕の一本を前へ出す。
ただそれだけ。
次の瞬間。
青白い光が砕け散った。
まるでガラスのように。
王都中が息を呑む。
桁違いだった。
ラモンも理解する。
これが英雄。
これが師匠。
自分が追い続けてきた背中。
ジークテンポラーも警戒を強める。
六本の砲身が一斉に展開された。
「なら貴様から消す」
時間停止。
世界が静止する。
王都が止まる。
風が止まる。
全てが止まる。
だが。
レジェンドだけは普通に歩いていた。
ジークテンポラーの顔が歪む。
「何?」
レジェンドは答えない。
静かに近付く。
そして。
拳を振るう。
ただそれだけ。
ジークテンポラーの身体が消えた。
王都の外。
山脈を突き破りながら吹き飛んでいく。
数十キロ先でようやく止まった。
圧倒的だった。
ラモンは呆然とする。
自分が命懸けで戦っていた相手を。
師匠は一撃で吹き飛ばした。
レジェンドは翼を広げる。
終わらせるつもりだった。
ここで。
今すぐ。
ジークテンポラーを。
だが。
その時だった。
「待ってくれ」
レジェンドが振り返る。
ラモンが立っていた。
血まみれだった。
それでも真っ直ぐ師匠を見ている。
「師匠」
「なんだ」
ラモンは拳を握った。
震えていた。
恐怖もある。
勝てる保証もない。
それでも。
「俺にやらせてくれ」
レジェンドは黙る。
ラモンは続けた。
「このまま師匠が倒したら」
「俺は一生追いつけない」
「また守られるだけになる」
風が吹く。
王都は静まり返っていた。
誰も口を挟まない。
ラモンは真っ直ぐ見上げる。
「俺が決着をつけたい」
「俺の力で」
レジェンドの七つの眼が細くなる。
その顔は厳しかった。
だが。
少しだけ。
嬉しそうでもあった。
長い沈黙の後。
レジェンドは空を見上げた。
そして小さく笑う。
「馬鹿弟子が」
ラモンも笑った。
その言葉を聞きたかった。
レジェンドは翼を閉じる。
そして後ろへ下がった。
「死ぬなよ」
「努力する」
ラモンは前へ出る。
再び拳を握る。
遠くの山脈では瓦礫が吹き飛んでいた。
ジークテンポラーが立ち上がる。
身体は半壊している。
それでも笑っていた。
「なるほど」
「面白い」
その瞳がラモンを見る。
今度は英雄ではない。
弟子を見る目だった。
そしてラモンも理解していた。
ここからが本当の戦いだと。
英雄に守られる戦いではない。
自分自身の戦いだと。
ラモンはゆっくり構える。
その身体の奥で。
再び何かが回転を始めていた。
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