「理解できない力」
ジークテンポラーが城壁の向こうから姿を現した。紺色の装甲は砕けていたが、その傷は少しずつ修復されていた。背中からは六本の砲身が生え、地面へ突き刺さった管が何かを吸い上げている。王都の人々は息を呑んだ。あれだけの攻撃を受けてもなお立っている。その事実だけで絶望するには十分だった。
一方のラモンも困惑していた。先ほど自分の拳が時間停止を突破した。確かにそうだった。だが、どうやったのか分からない。身体の奥で何かが回転していた感覚は覚えている。しかし、それ以上は何も分からなかった。もう一度やれと言われてもできる気がしない。
「面白いな」
ジークテンポラーが言う。
「まさか時間停止の中で動くとは」
ラモンは拳を握った。
「俺も何が起きたのか分からない」
それは本音だった。
敵を倒す方法も分からない。自分の力も分からない。ただ、このまま逃げるわけにはいかないことだけは分かっていた。
次の瞬間、ジークテンポラーの銃口が光る。青白い閃光が放たれた。ラモンは横へ飛ぶ。先ほどまでなら見切れなかった速度だ。地面が爆発する。石畳が吹き飛び、建物が崩壊する。
ラモンは一気に距離を詰めた。
拳を振るう。
だが当たらない。
ジークテンポラーが時間停止を発動したのだ。
世界が静止する。
風が止まる。
瓦礫が止まる。
音が消える。
そして今度はラモンも止まった。
「なっ――」
身体が動かない。
先ほどは動けた。
だが今は違う。
指一本動かせない。
ジークテンポラーはゆっくり近付いてくる。
「なるほど」
蚊のような管が揺れる。
「偶然だったか」
その声には少し失望が混じっていた。
ラモンは必死に動こうとする。
だが無理だった。
足も腕も動かない。
ジークテンポラーの銃口が胸へ向く。
発射。
轟音。
ラモンの身体が吹き飛んだ。
王城の壁を突き破る。
さらに地面を転がり続けた。
時間停止が解除される。
激痛が全身を襲う。
呼吸が苦しい。
肋骨も何本か折れていた。
だが、それ以上に悔しかった。
さっきは動けた。
なのに今は動けない。
自分の力なのに自分で理解できていない。
その時だった。
脳裏に師匠の姿が浮かぶ。
レジェンド。
森で暮らしている英雄。
いつも落ち着いていて、何が起きても慌てない存在。
もし師匠ならどうする。
ラモンは考えた。
そして気付く。
焦っていた。
力を出そうとしていた。
使おうとしていた。
だが、あの時は違った。
人々を守ろうとした時だった。
怒りや恐怖ではなかった。
ただ前へ進もうとしていた。
その瞬間だけ、身体の奥で何かが回転した。
「回転……」
ラモンは呟く。
その言葉を聞いたジークテンポラーの目が細くなる。
「ほう」
何かを知っているような反応だった。
だが教えるつもりはないらしい。
再び銃口が向く。
今度は先ほどより巨大なエネルギーが集まっていた。
王都ごと吹き飛ばしかねない威力。
兵士達は青ざめる。
市民達は逃げ惑う。
ラモンは立ち上がった。
足は震えている。
身体もボロボロだった。
それでも立つ。
守ると決めたからだ。
「まだ終わってない」
ジークテンポラーは無言だった。
ただエネルギーが増大していく。
そして発射されようとした瞬間。
遠く離れた森で。
レジェンドが立ち上がった。
七つの眼が王都の方向を見つめる。
八本の腕がゆっくり握られる。
「限界か」
静かな声だった。
弟子を信じている。
だが、このままでは死ぬ。
英雄は決断した。
四百年間封じていた翼が大きく広がる。
黄金の装甲が陽光を反射する。
次の瞬間。
レジェンドの姿が消えた。
王都へ向かって飛び立ったのだ。
そしてラモンの前では、ジークテンポラー最大の一撃が放たれようとしていた。
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