「止まった世界」
王都の空は異様だった。無数の時計が浮かび、針が同時に回転している。人々の悲鳴が響き、兵士達は次々と膝をついていく。時間を奪われているのだ。若かった者は老い、老いていた者は砂のように崩れ始める。その光景を見たラモンは歯を食いしばった。守ると決めたばかりだった。なのに目の前で人々が傷付いている。怒りが胸を満たしていく。
「無意味だ」
ジークテンポラーが言った。
「時間は全て私の支配下にある」
両腕の銃口がラモンへ向く。青白い光が放たれた。先程よりも遥かに巨大な攻撃だった。ラモンは避けない。拳を握る。身体の奥で何かが回転しているのを感じた。心臓でも血液でもない。もっと根源的な何かだった。龍神族の血。魂。存在そのもの。全てが回転している。
光線が直撃する。
だがラモンは吹き飛ばなかった。
足が地面にめり込む。
それだけだった。
「なに?」
初めてジークテンポラーが驚く。
ラモン自身も驚いていた。身体が勝手に理解している。無限回転とは力ではない。技でもない。存在の在り方そのものだ。止まらない。終わらない。消えない。だから外から加えられた力も押し流してしまう。
ラモンは一歩踏み出した。
空気が震える。
二歩目を踏み出す。
大地が軋む。
三歩目を踏み出した瞬間、ジークテンポラーが時間停止を発動した。
世界から音が消える。
風も止まる。
落ちていた瓦礫も空中で静止する。
王都そのものが一枚の絵になった。
だがラモンは歩き続けた。
一歩。
また一歩。
止まった世界の中を進んでいく。
ジークテンポラーの表情が変わった。
恐怖だった。
「なぜだ」
時間停止は絶対だった。
誰も動けない。
誰も逆らえない。
それなのに目の前の少年は歩いてくる。
まるで時間そのものを踏み砕くように。
ラモンは答えた。
「分からない」
正直な言葉だった。
「でも」
さらに一歩進む。
「止まっているお前より」
拳を握る。
「前に進む俺の方が強い気がする」
次の瞬間。
拳が振り抜かれた。
轟音。
ジークテンポラーの身体が吹き飛ぶ。
王城を貫通する。
巨大な城壁が崩壊した。
時間停止が解除される。
世界に音が戻った。
人々は何が起きたのか分からない。ただ目の前で怪物が吹き飛ばされたことだけは理解できた。
歓声が上がる。
兵士達が叫ぶ。
ラモンの名前を呼ぶ者もいた。
だがラモンは振り返らなかった。
瓦礫の向こうを見ていた。
終わっていない。
まだだ。
その時だった。
崩れた城壁の向こうから黒い霧が噴き出した。
空を覆うほどの量だった。
その中心にジークテンポラーが立っている。
紺色の装甲は砕けていた。
しかし傷は塞がり始めていた。
そして何より。
身体が変化していた。
背中から六本の砲身が生えている。
口の管はさらに長くなり、地面へ突き刺さっていた。
まるで星そのものから何かを吸い上げているようだった。
レジェンドは遠く離れた森からその光景を見ていた。
七つの眼が細くなる。
「まずいな」
小さく呟く。
ラモンはまだ知らない。
ジークテンポラーが吸っているものを。
時間だけではない。
星の寿命そのものを吸い上げていることを。
そして。
本当の戦いはまだ始まってすらいなかった。
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