「時を喰らう者」
王都は騒然としていた。
時計塔の周囲には軍隊が集結している。
避難命令も出されていた。
それほどまでに異常な状況だった。
ラモンは広場へ降り立つ。
そして時計塔を見上げた。
頂上に何かがいる。
いや。
誰かがいる。
その姿を見た瞬間、周囲の兵士達が息を呑んだ。
全身は深い紺色。
人型ではある。
だが明らかに人間ではない。
両腕は巨大な銃そのものだった。
肩から先が存在せず、銃身へ変化している。
顔には目も鼻もない。
代わりに口から長い管が伸びていた。
まるで蚊のようだった。
その管は脈打っている。
生きているように。
そして何より異様だったのは周囲の空間だった。
時計塔の近くだけ空気がおかしい。
鳥が飛んでいる。
だが途中で止まる。
次の瞬間には消えている。
時間そのものが歪んでいた。
「ジークテンポラー……」
総司令が震える声で呟く。
その名を聞いた瞬間。
頂上の怪物がゆっくり顔を向けた。
ラモンを見る。
そして。
笑った。
不気味だった。
口らしき部分はない。
それなのに笑ったと分かった。
「やっと来た」
低い声が響く。
広場全体が震えた。
「龍神族」
ラモンは眉をひそめる。
初対面のはずだった。
だが相手は知っている。
自分のことを。
「俺を知ってるのか」
ジークテンポラーは答えない。
代わりに空を見上げた。
「この星は退屈だ」
その瞬間。
銃口がラモンへ向いた。
轟音。
青白い光線が放たれる。
ラモンは反射的に跳んだ。
地面が吹き飛ぶ。
広場の石畳が数百メートルに渡って消滅した。
兵士達が悲鳴を上げる。
ラモンの表情が変わる。
強い。
今まで見たどんな魔獣よりも。
圧倒的だった。
だが。
恐怖はなかった。
胸の奥が熱くなる。
戦える。
そう思った。
「なら!」
ラモンは地面を蹴った。
爆発音。
身体が一瞬で時計塔へ到達する。
拳を振るう。
普通なら山を砕く一撃。
だが。
当たらなかった。
ジークテンポラーの姿が消える。
「なっ」
次の瞬間。
背後から衝撃。
ラモンは吹き飛ばされた。
時計塔を貫通する。
建物が崩壊する。
瓦礫が降り注ぐ。
広場が悲鳴に包まれた。
ラモンは立ち上がる。
痛みはない。
だが理解できなかった。
見えなかった。
何をされたのか。
その時だった。
世界が止まる。
風が止まる。
人が止まる。
瓦礫が止まる。
全てが静止した。
ラモンだけが動いていた。
「なんだこれ」
周囲を見る。
誰も動かない。
時間が止まっていた。
そして目の前にジークテンポラーが現れる。
ゆっくり歩いてくる。
止まった世界の中を。
「理解したか」
ラモンは息を呑む。
時間停止。
それが奴の能力だった。
「私は時間を支配する」
ジークテンポラーが言う。
「止めることも」
「進めることも」
「奪うことも」
その蚊のような管が伸びる。
近くの兵士へ刺さる。
すると兵士の髪が白くなる。
肌が皺だらけになる。
数秒で老人になった。
ラモンの瞳が見開かれる。
命を吸っている。
時間を吸っている。
「貴様!」
怒りが爆発する。
ラモンは飛び出した。
拳を振るう。
だが当たらない。
時間停止の中ではジークテンポラーが有利すぎる。
攻撃が見えない。
届かない。
一方的だった。
腹を撃たれる。
肩を撃たれる。
足を撃たれる。
ラモンは吹き飛び続ける。
それでも立ち上がる。
何度も。
何度も。
ジークテンポラーは首を傾げた。
「何故だ」
理解できなかった。
「何故立つ」
ラモンは血を拭う。
そして笑った。
「決まってるだろ」
視線の先には人々がいた。
避難している市民達。
泣いている子供達。
震える兵士達。
「守るためだ」
ジークテンポラーは沈黙した。
その言葉が理解できなかった。
そして。
ラモンの身体から光が溢れ始める。
黄金の光。
空気が震える。
大地が揺れる。
ジークテンポラーの表情が初めて変わった。
「その力は……」
ラモンも気付いていなかった。
だが確かに感じる。
身体の奥。
魂の奥。
ずっと眠っていた何かが。
目覚めようとしていた。
無限回転。
後に宇宙を揺るがす能力が。
今まさに覚醒しようとしていた。
面白ければブックマーク、評価お願いします




