「英雄の姿」
翌朝。
ラモンはいつも通り目を覚ました。
窓から差し込む光。
鳥の鳴き声。
平和な朝だった。
だが昨日見た赤い閃光が頭から離れない。
師匠の表情も気になっていた。
あんな顔は見たことがなかった。
ラモンはベッドから飛び起きる。
そして外へ出た。
庭ではレジェンドが薪を割っていた。
巨大な身体。
朝日に照らされて黄金の装甲が輝いている。
ラモンは昔から見慣れている。
だが他の人が見れば卒倒する姿だった。
身長は五メートル近い。
八本の腕。
四本の脚。
背中には巨大な二枚の翼。
頭部には七つの金色の眼。
全身を覆う龍神族特有の黄金装甲。
まさしく神話に出てくる存在だった。
それでもラモンにとっては師匠だった。
「おはよう!」
「おはよう」
八本の腕が同時に薪を割る。
毎回思う。
器用すぎる。
「昨日のあれ何だったんだ?」
レジェンドは少しだけ動きを止めた。
七つの眼がラモンを見る。
「まだ気にしていたのか」
「そりゃ気になるだろ」
レジェンドはしばらく黙る。
そして空を見上げた。
「嫌な予感だ」
その一言だった。
ラモンは首を傾げる。
意味が分からない。
だがレジェンドほどの存在がそう言うなら何かあるのだろう。
二人は朝食を食べる。
その後ラモンは修行へ向かった。
森の奥。
巨大な滝。
そこが修行場だった。
ラモンは拳を握る。
そして岩へ向かって殴った。
轟音。
数十メートルの岩が砕け散る。
普通なら十分すぎる威力だ。
だがラモンは不満そうだった。
「まだ足りない」
もっと強くなりたい。
理由は単純だった。
師匠を超えたい。
レジェンドは憧れだった。
いつか肩を並べたい。
そう思っていた。
何時間も修行を続ける。
汗が流れる。
息が上がる。
だが楽しかった。
強くなることが好きだった。
その頃。
カプ星の中心都市では異変が起きていた。
時計塔の時計が止まる。
人々の動きが突然止まる。
そしてまた動き出す。
数秒。
あるいは数分。
原因は分からない。
だが被害は確実に増えていた。
各地で同じ現象が発生している。
そしてついに。
一人の研究者がある結論へ辿り着く。
「時間そのものが干渉されている」
誰も信じなかった。
そんなことが可能な存在などいるはずがない。
だが現実は起きていた。
そしてその夜。
レジェンドの家へ来客が訪れる。
森へ複数の飛行艇が降下する。
王国直属部隊だった。
ラモンは驚いた。
こんな森へ王国の人間が来ることなど滅多にない。
飛行艇の扉が開く。
中から一人の男が降りてきた。
王国軍総司令。
カプ星でも指折りの権力者だった。
男はレジェンドを見る。
そして深く頭を下げた。
「お願いがあります」
ラモンは目を丸くした。
王国軍総司令が。
英雄へ頭を下げている。
レジェンドは何も言わない。
ただ静かに話を聞いていた。
「時間異常は拡大しています」
「知っている」
「被害は既に七都市」
ラモンの表情が変わる。
七都市。
想像以上だった。
「我々では対処できません」
男の声は震えていた。
「どうか力を貸してください」
森が静まり返る。
風の音だけが聞こえる。
ラモンは師匠を見る。
きっと引き受ける。
そう思った。
だが。
レジェンドは首を横に振った。
「断る」
その場の空気が凍った。
ラモンも驚く。
男も言葉を失った。
レジェンドは続ける。
「私はもう戦わない」
七つの眼はどこか悲しそうだった。
「英雄は引退した」
だが男は諦めなかった。
「では誰が戦うのです!」
叫ぶ。
恐怖が滲んでいた。
「このままでは世界が終わる!」
その言葉を聞いた瞬間。
ラモンの胸がざわついた。
世界が終わる。
そんな未来は嫌だった。
そして。
その夜。
ラモンは一人で考える。
森の丘。
満天の星空。
風が吹いている。
世界が危ない。
師匠は戦わない。
なら。
自分はどうするべきなのか。
まだ答えは出なかった。
だが運命は既に動き始めていた。
遥か宇宙の彼方。
黒い空間の中で。
一つの存在がゆっくりと目を開く。
その瞳には時計の針のような模様が刻まれていた。
ジークテンポラー。
時を支配する災厄。
その視線が。
ついにカプ星へ向けられた。
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