「森の英雄」
遠い昔。
まだゼルクロノスという名前が存在しなかった頃。
宇宙の片隅にカプ星という星があった。
そこには様々な種族が暮らしていた。人間、獣人、妖精、巨人、龍人。互いに争うこともあったが、それでも同じ空の下で生きていた。星全体は平和に包まれており、人々は未来を信じていた。
その星で最も有名な存在がいた。
ザ・レジェンド。
誰もが知る英雄だった。
四百年前、世界を滅ぼしかけた厄災を鎮めた伝説の存在。だが本人は英雄扱いを嫌い、文明から離れた大森林で静かに暮らしていた。
森の奥には小さな家があった。
レジェンドは薪を割り、畑を耕し、狩りをする。まるで普通の老人のような生活だった。
だがその日。
森の静寂を破る声が響く。
赤ん坊の泣き声だった。
レジェンドは眉をひそめる。
森の奥に赤ん坊などいるはずがない。
声のする方へ向かう。
そして見つけた。
古びた毛布。
その中で泣く赤ん坊。
近くには誰もいなかった。
捨て子だった。
レジェンドはしばらく黙っていた。
拾えば人生が変わる。
だが見捨てることもできない。
赤ん坊は必死に泣いている。
生きたいと叫んでいる。
やがてレジェンドは小さくため息をついた。
「仕方ないな」
赤ん坊を抱き上げる。
不思議だった。
赤ん坊は泣き止んだ。
まるで安心したように。
レジェンドは少し笑う。
「お前、随分図太いな」
その日から二人の生活が始まった。
レジェンドは赤ん坊を育てた。
食事を作り、文字を教え、戦い方を教え、生き方を教えた。血は繋がっていない。それでもレジェンドにとって赤ん坊は特別な存在になっていった。
名前も付けた。
ラモン。
それが少年の名前だった。
年月は流れる。
五歳。
八歳。
十歳。
ラモンは元気に育った。
森を駆け回り、動物と遊び、時には木から落ちて泣いた。
その度にレジェンドが助けた。
「師匠!」
「なんだ」
「魚捕れた!」
「でかした」
「今日は俺が焼く!」
「焦がすなよ」
「多分大丈夫!」
「不安しかないな」
そんな日々だった。
平和だった。
ラモンはレジェンドを本当の父親のように慕っていた。
レジェンドもまたラモンを弟子としてだけでなく、一人の息子のように見ていた。
ある日。
二人は湖のほとりにいた。
夕日が水面を赤く染めている。
ラモンは水切りをしながら聞いた。
「師匠」
「なんだ」
「俺の親って誰なんだろうな」
レジェンドは少しだけ動きを止めた。
ラモンも十五歳になろうとしている。
いつかは聞かれると思っていた。
「分からん」
正直に答えた。
「そうか」
ラモンは意外にも笑った。
「まあいいや」
「気にならないのか」
「だって師匠がいるし」
レジェンドは黙る。
ラモンは石を投げた。
水面を何度も跳ねる。
「俺さ」
ラモンは空を見上げる。
「師匠の子供で良かったと思ってる」
レジェンドは何も言わなかった。
言葉が出なかった。
ただ少しだけ目を細める。
夕日が眩しかった。
だからだ。
そういうことにしておいた。
その頃。
世界では少しずつ不穏な動きが始まっていた。
星の各地で時間異常が発生していた。
突然止まる時計。
巻き戻る建物。
消える人々。
誰も原因を知らない。
だが一つだけ噂があった。
時を支配する存在。
ジークテンポラー。
その名前が少しずつ世界へ広がり始めていた。
まだ誰も知らない。
その存在が。
ラモンの人生を大きく変えることになると。
そして。
後にゼルクロノスと呼ばれる悲劇の始まりになることを。
面白ければブックマーク、評価お願いします




