「修行をしたら8年経ってました」
時間の感覚はすでに崩壊していた。
一瞬が永遠になり、永遠が一瞬に戻る。
レグルスはその境界のない空間に立ち続けていた。
何をしているのか、自分でも分からない瞬間が増えていく。
ただ“在る”という事実だけが続いていた。
最初のうちは苦しみだった。
ルカの死が何度も蘇る。
助けられなかった瞬間が繰り返される。
叫んでも届かない記憶が、意識の中で反響する。
だがそのすべては、次第に薄れていった。
薄れるというより、“分解”されていく感覚だった。
悲しみは形を失い、怒りは方向を失う。
残ったのはただの情報だった。
感情ではなく、現象としての記憶。
それが淡々と流れていく。
レグルスは気付く。
ここは修行ではない。
“再構築”の場所だ。
繋ぐ能力の本質を理解させるために作られた領域。
世界の断片を見続けるための場所。
やがて変化が起きた。
線が見えるようになった。
空間に走る無数の構造。
それぞれが別の現実を支えている。
繋がっているものと、繋がっていないものの境界。
レグルスは手を伸ばす。
何もない空間に触れる。
だがそこには確かに“繋がり”があった。
触れた瞬間、別の記憶が流れ込む。
別の世界の、別の終わり。
何度も繰り返される崩壊。
救われることのない結末。
その無数のパターンを見続けるうちに、ある理解が生まれる。
世界はひとつではない。
そしてすべては繋がりでできている。
その繋がりをどう扱うかで、結果が変わる。
壊すこともできる。
保つこともできる。
歪めることすらできる。
だが“選ぶこと”そのものが力だった。
レグルスはゆっくりと立ち上がる。
身体は変わらない。
疲労もない。
だが内側だけが確実に変化している。
見えている世界の層が増えていく。
やがて時間の概念が曖昧になる。
今が何日目なのか分からない。
一年が過ぎたのか、一時間なのかも分からない。
ただ理解だけが積み重なる。
繋ぐという行為の意味だけが深くなる。
そしてある瞬間。
空間の線が“反転”した。
今まで繋がっていなかったものが繋がる。
切れていたはずの流れが戻る。
その瞬間、レグルスは確信する。
自分は変わり始めている。
能力ではなく、存在そのものが。
繋ぐという概念に近づいている。
いや、近づいているのではない。
“同化”している。
それでも止まらない。
止める理由が消えていた。
ルカの死はまだそこにある。
だがそれは悲しみではない。
進むための座標になっていた。
そしてさらに時間が流れる。
何も起きない時間。
ただ理解だけが続く時間。
それでも空間は変化し続けていた。
レグルスの存在に合わせて。
やがて、ある感覚が訪れる。
終わりの気配ではない。
“完成に近づく感覚”。
繋ぐ力が、ひとつの形を取り始める。
それを言葉にすることはできない。
だがレグルスは理解する。
もうすぐ終わる。
この空間での時間が終わる。
そして外へ戻る時が来る。
そう確信した瞬間だった。
空間が崩れ始めた。
線が収束していく。
世界がひとつの点に戻るように縮む。
長い時間が終わろうとしていた。
そして――
レグルスはまだ知らない。
これが八年の終わりであることを。
そして現実では、一瞬も過ぎていないことを。
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