「絶望再来」
空間が崩れた瞬間、レグルスの意識は引き戻された。
長い沈黙の果てに、視界が再び現実へと繋がる。
しかしそこには“変化した自分”だけが残っていた。
世界は何も知らない顔で続いている。
そしてレグルスだけが、すべてを知っていた。
目の前の空気は重い。
だがそれは以前の重さではない。
繋がりの密度が見える重さだった。
世界は薄く、脆く、そして膨大だった。
レグルスは静かに息を吐く。
塔から出た瞬間、時間が流れ始めた。
そして気付く。
現実ではほとんど時間が経っていない。
あの八年は、ここでは一瞬に等しい。
身体は変わらないままだった。
レグルスはすぐに動いた。
伝えなければならないことがあった。
ゼルクロノスが復活する。
そしてそれはもう止められない段階に入っている。
残された時間はわずかだった。
だが誰も信じなかった。
会議の場でも、都市の上層でも、反応は同じだった。
「根拠がない」
「現実味がない」
「混乱させるだけだ」
言葉は届かなかった。
レグルスは何度も説明した。
塔のこと、隔絶世界のこと、見た未来のこと。
それでも視線は冷たかった。
“理解できないものは存在しない”という顔だった。
世界はまだ、壊れる準備ができていなかった。
その間も時間は進む。
7日という期限だけが静かに迫る。
レグルスは諦めなかった。
説得を続けながら、同時に準備を続けた。
繋ぐ力の応用を何度も試す。
だが結果は変わらない。
人々の意識は繋がらない。
恐怖と疑念が壁になっている。
レグルスの力はまだ完全ではなかった。
“理解されない世界”では繋がりは成立しない。
そして7日目が来る。
空が割れるような音がした。
都市の中心が揺れる。
建物が崩れ始める。
それは前触れではなく、開始だった。
空間が裂ける。
黒い裂け目から、何かが落ちてくる。
ゆっくりと、しかし圧倒的に。
それは姿ではない。
“存在の重さ”そのものだった。
都市国家は一瞬で崩壊した。
構造が意味を失い、順番に壊れていく。
人々の声も届かない。
抵抗も成立しない。
ただ崩れていく世界だけがあった。
そして静かに、降り立つ。
ゼルクロノス。
その姿は完全ではない。
だが“完成を待つもの”としての確かさがあった。
世界の中心に立つだけで、周囲の現実が歪む。
空間が彼を基準に再構築されていく。
レグルスはその場に立っていた。
恐怖はない。
代わりにあったのは静かな理解だった。
これは戦いではない。
“世界の更新”だと。
ゼルクロノスは周囲を見渡す。
壊れた都市、崩れた構造、逃げる人々。
そして最後に、レグルスを見る。
視線が交わる。
空気が止まる。
自然が広がる場所へと、空間が移動する。
都市の残骸は背後に消えていく。
そこには森と大地だけが残る。
人工の痕跡が消えた場所。
ゼルクロノスの降臨地点だった。
静寂の中で、二つの存在が向かい合う。
レグルスとゼルクロノス。
長い時間の果てに、ようやく同じ空間に立った。
言葉はまだない。
だが終わりはすでに始まっていた。
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