表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/151

「修行の始まり」

黒い塔の内部は静寂に満ちていた。

音はないはずなのに、空間そのものが脈打っているようだった。

レグルスはその中心に立ち、ただ周囲を見渡していた。

塔の壁には無数の線が走り、それぞれが違う方向へと伸びている。

そのすべてが何かを繋ぎ、何かを切り離しているように見えた。


そのとき、空間が揺れた。

揺れというよりも、記憶が浮かび上がるような感覚だった。

目の前に光が滲み、形を持ち始める。

それは映像ではなく、存在そのものの再現だった。

レグルスは息を呑む。


そこにいたのは男だった。

まだ“ゼルクロノス”ではない。

かつて英雄と呼ばれた存在、ザレジェンド。

その姿は確かに若く、迷いを持ちながらも戦っていた。

誰かを救うために動いている目だった。


だがその周囲は崩れていた。

守ったはずの星が壊れていく。

助けたはずの人間がまた争いを始める。

止めようとしても止まらない現実だけが残っていた。

英雄の理想が少しずつ崩れていく。


レグルスは動けなかった。

その光景は“過去”ではなく“原因”だった。

なぜゼルクロノスが生まれたのか。

なぜ世界がここまで壊れたのか。

その始まりが、目の前で進んでいる。


やがて場面は変わった。

宇宙をひとり漂うザレジェンドの姿。

星を救えなかった後の時間。

何も救えなかったという事実だけが積み重なっていた。

その沈黙の中で、男の思考が変わっていく。


「人類は変わらない」

その言葉が、何度も繰り返されていた。

救っても繰り返す。

止めても戻る。

ならばどうすればいいのか。


答えはひとつに収束していく。

“支配すればいい”。

その瞬間、レグルスは理解する。

これは堕落ではない。

思想の最終到達点だ。


ザレジェンドの姿が揺らぐ。

光が黒へと変わっていく。

英雄の輪郭が、別の何かへ書き換えられていく。

それがゼルクロノスという存在の始まりだった。

ただの変質ではなく、確信による変化。


レグルスの胸の奥が重くなる。

ルカの死とも違う感覚だった。

これはもっと根本的な“世界のルール”の話だった。

救いも復讐も、その下にあるもの。

そこに触れている感覚だけが残る。


そして映像が途切れた。

塔の内部に再び静寂が戻る。

何もなかったように、空間が元に戻っていく。

だがレグルスの前に、新しい扉のようなものが現れていた。

それは時間ではなく“層”の境界だった。


その向こうから声がした。

言葉ではない。

意思そのものが押し寄せてくる感覚。

「ここから先は時間が意味を失う」

そんな理解だけが頭に残る。

レグルスは一歩近づく。


踏み込んだ瞬間、世界が崩れた。

音も光も消える。

身体の感覚だけが残る。

だがその感覚すら薄れていく。

自分がどこにいるのか分からなくなる。


そして時間が流れ始めた。

正確には“時間の中に落ちた”。

一日が過ぎる。

一年が過ぎる。

その感覚すら曖昧になっていく。


レグルスはそこにいる。

何もない空間で、ただ存在だけを保っている。

身体は変わらない。

傷も癒えず、老いもない。

ただ“理解”だけが積み重なっていく。


これは修行だと気付くのに時間はかからなかった。

力を鍛えるものではない。

世界そのものの構造を理解するための場所。

繋ぐとは何か。

切るとは何か。

存在とは何か。


そのすべてを問われ続ける空間だった。

そしてレグルスはまだ知らない。

ここで八年が流れていることを。

現実では一瞬も経っていないことを。

自分の身体が何も変わっていないことを。


ただ、意識だけが深く沈んでいく。

そして修行は、まだ始まったばかりだった。

面白ければブックマーク、評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ