表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/151

「守るための力」

谷底から這い上がるだけで二日かかった。


普通なら生きていることすら奇跡だった。


だがレグルスは歩いていた。


身体中が傷だらけだった。


腕も痛い。


脚も痛い。


それでも止まらない。


胸の中にあるのは一つだけだった。


ルカを助ける。


そのために前へ進む。


山道を抜ける。


森を越える。


そして三日目の夕方。


ようやく廃研究施設へ辿り着いた。


空は赤く染まっていた。


まるで血の色だった。


レグルスは入口の前で立ち止まる。


嫌な気配がする。


前に来た時とは比べ物にならない。


空気そのものが重い。


まるで何か巨大な存在が呼吸しているようだった。


レグルスはゆっくり中へ入る。


静かだった。


だが奥から何かの音が聞こえる。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


心臓の鼓動のような音。


それが施設全体へ響いている。


レグルスは急ぐ。


廊下を駆ける。


階段を飛び越える。


そして。


あの広間へ辿り着いた。


そこで息を呑む。


中央に黒い繭が浮いていた。


以前より大きい。


三メートル近くある。


表面には無数の亀裂が走っている。


そして。


その前にルカがいた。


黒い光に包まれている。


顔色はさらに悪い。


立っていること自体が不思議なほどだった。


「ルカ!」


叫ぶ。


ルカがゆっくり振り向く。


目が合う。


だが違和感があった。


瞳の奥が暗い。


まるで眠っていない人間のようだった。


「また来たのか」


掠れた声。


レグルスは頷く。


「迎えに来た」


ルカは笑った。


乾いた笑いだった。


「まだそんなこと言ってるのか」


「言うよ」


「俺はもう戻れない」


「戻れる」


「無理だ」


「無理じゃない」


ルカは目を閉じた。


少しだけ苦しそうだった。


そして。


「帰れ」


静かに言う。


レグルスは首を振る。


「嫌だ」


「帰れ」


「嫌だ」


「帰れ!」


轟音。


黒い衝撃波が放たれる。


床が吹き飛ぶ。


壁が砕ける。


レグルスは避けない。


右腕を前へ出す。


銀色の腕輪が光る。


インフィニティレガリア。


そして。


初めて能力を発動する。


「スパイラルディフュージョン!」


銀色の回転が生まれる。


空気が渦を描く。


衝撃波が回転へ触れる。


その瞬間。


黒い力が逸れた。


轟音と共に天井へ直撃する。


コンクリートが崩落する。


ルカが目を見開いた。


「何だそれ」


レグルスも驚いていた。


成功した。


本当に受け流せた。


だがルクスの言葉を思い出す。


守るための力。


攻撃するためじゃない。


だから再び前へ出る。


「ルカ」


「帰ろう」


ルカの表情が歪む。


「帰れるわけないだろ!」


今度は自分から飛び出した。


黒い光を纏った拳。


凄まじい速度。


レグルスは再びスパイラルディフュージョンを展開する。


拳が回転へ触れる。


衝撃が逸れる。


ルカが横へ流される。


だが。


レグルスは反撃しない。


そのまま立っている。


ルカが叫ぶ。


「何で攻撃してこない!」


「戦いに来たんじゃない!」


「お前を助けに来たんだ!」


その言葉にルカの身体が震えた。


一瞬だけ。


本当に一瞬だけ。


昔のルカへ戻ったように見えた。


だが。


次の瞬間だった。


黒い繭が脈動する。


ドクン。


空気が震える。


ルカが苦しそうに頭を押さえる。


「ぐっ……」


膝をつく。


呼吸が乱れる。


レグルスは駆け寄ろうとする。


だが。


繭の表面が割れた。


パキッ。


小さな音だった。


しかし施設全体が揺れる。


黒い光が噴き出す。


レグルスは本能で理解した。


まずい。


何かが出てくる。


ルカも顔を上げる。


繭を見ていた。


そして。


絶望したような表情になる。


「……嘘だ」


掠れた声。


レグルスも繭を見る。


亀裂が増えていた。


一つ。


二つ。


三つ。


止まらない。


まるで中から何かが押し出しているようだった。


その時。


繭の内部から声が聞こえた。


低く。


重く。


世界そのものを震わせるような声。


「……あと七日」


レグルスの背筋が凍る。


ルカも震えている。


声は続く。


「あと七日で我は蘇る」


施設全体が揺れる。


空気が悲鳴を上げる。


そして。


黒い繭の中心に巨大な眼が一瞬だけ開いた。


レグルスは動けなかった。


見ただけで理解してしまった。


あれは人間じゃない。


生物ですらない。


もっと別の何かだ。


そして声が最後に告げる。


「待っていろ」


「世界よ」


ドクン。


鼓動が響く。


繭は再び静かになる。


だが。


残り七日。


ゼルクロノス復活までの時間が、ついに示されてしまった。

面白ければブックマーク、評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ