「継承者」
白い世界は静寂に包まれていた。
レグルスの腕では銀色の腕輪が淡く輝いている。
インフィニティレガリア。
ルクスが遺した力。
だがレグルスの心はまだ整理できていなかった。
ルカのこと。
インペリアルレリックのこと。
そして目の前にいる伝説の英雄のこと。
聞きたいことはいくらでもある。
だがルクスはそんなレグルスを静かに見ていた。
「悔しいか」
突然そう聞かれる。
レグルスは少しだけ俯いた。
「悔しい」
即答だった。
負けた。
守れなかった。
助けられなかった。
全部事実だ。
だから悔しい。
ルクスは頷く。
「なら覚えておけ」
「え?」
「その感情を忘れるな」
レグルスは顔を上げる。
ルクスは穏やかだった。
だがその瞳の奥には確かな強さがある。
「負けた記憶は力になる」
「勝った記憶は油断になる」
「だから今のお前は間違っていない」
レグルスは言葉を失う。
ルクスは続ける。
「勘違いするな」
「今のお前は弱い」
容赦のない言葉だった。
しかし否定できない。
事実だからだ。
「ルカにも勝てない」
「インペリアルレリックにも勝てない」
「ましてゼルクロノスには届きもしない」
胸に突き刺さる。
だがルクスはそこで終わらなかった。
「だから強くなれ」
その一言だけだった。
レグルスは拳を握る。
逃げたいとは思わなかった。
むしろ燃えるような感情が湧いていた。
「どうすればいい」
ルクスは少しだけ笑う。
「それを考えるのがお前だ」
「俺じゃない」
レグルスは思わず苦笑した。
英雄なのに。
伝説なのに。
全部教えてくれるわけではないらしい。
その時だった。
白い世界が揺れる。
空間全体が震え始めた。
ルクスは空を見上げる。
初めて表情が変わった。
「時間切れか」
「何が?」
「向こう側だ」
レグルスの鼓動が速くなる。
ルクスは静かに言った。
「ゼルクロノスは死んでいない」
その一言で空気が変わった。
レグルスは目を見開く。
「え?」
「正確には殺しきれなかった」
「だから奴は残った」
「残滓として」
ルクスの声は冷静だった。
怒りも憎しみもない。
ただ事実を語っている。
「インペリアルレリックはそのための器だ」
「復活のための楔だ」
レグルスの脳裏にルカの顔が浮かぶ。
嫌な予感が走る。
「じゃあルカは」
ルクスは少し沈黙した。
そして答える。
「急がなければならない」
それが答えだった。
レグルスは奥歯を噛み締める。
間に合わなければ。
ルカは。
その先を考えたくなかった。
白い世界がさらに揺れる。
崩壊が始まる。
ルクスの姿も少しずつ薄れていく。
「待って」
レグルスは叫ぶ。
「まだ聞きたいことがある」
「たくさんあるんだ」
ルクスは振り返る。
そして。
少しだけ昔を思い出すような顔をした。
「俺もそうだった」
「え?」
「何も分からないまま戦っていた」
「だから大丈夫だ」
レグルスは目を見開く。
ルクスは最後に言った。
「答えは戦いの中で見つけろ」
「守りたいものを見失うな」
「それだけだ」
光が溢れる。
視界が白く染まる。
世界が消えていく。
そして。
レグルスは目を開いた。
再び谷底だった。
腕にはインフィニティレガリア。
銀色の輝き。
現実だった。
夢ではない。
レグルスはゆっくり立ち上がる。
身体の傷は残っている。
だが心は違った。
迷いが減っていた。
目的は一つ。
ルカを救う。
それだけだ。
その頃。
山奥の廃研究施設。
ルカは膝をついていた。
全身から黒い光が漏れている。
呼吸は荒い。
意識も朦朧としている。
そして目の前には黒い繭のようなものが浮かんでいた。
昨日までは存在しなかったもの。
だが今は違う。
確実にそこにある。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
鼓動のような音が響く。
その度にインペリアルレリックが反応する。
まるで親子のように。
そして繭の中から声が聞こえた。
ほんの僅かに。
だが確かに。
「……もうすぐだ」
ルカは凍り付く。
それは自分の声ではなかった。
誰か別の存在の声だった。
そして黒い繭には一本の亀裂が走っていた。
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