「光の遺産」
落ちていた。
どこまでも。
どこまでも。
レグルスの意識は薄れていた。
身体中が痛い。
呼吸も苦しい。
何度も岩肌にぶつかった。
その度に激痛が走る。
それでも落下は止まらない。
視界は暗く、意識も遠のいていく。
頭の中に残っているのは一つだけだった。
ルカ。
親友の名前。
最後に見た顔。
怒りではなかった。
憎しみでもなかった。
苦しそうだった。
泣きそうだった。
それなのに止められなかった。
助けられなかった。
結局、自分は何もできなかった。
その時だった。
身体が何かへ激突する。
強烈な衝撃。
視界が白く弾ける。
そして落下が止まった。
レグルスは瓦礫の上へ投げ出され、そのまま動けなくなった。
しばらく呼吸を整えることしかできない。
肺が焼けるように痛い。
腕も脚もまともに動かない。
それでも少しずつ意識は戻ってきた。
ここは谷底だった。
上を見上げても空はほとんど見えない。
切り立った岩壁が周囲を囲み、人が簡単に降りて来られる場所ではないことだけは分かった。
レグルスは痛みに顔を歪めながら身体を起こした。
その時だった。
視界の端に光が映る。
淡い銀色だった。
暗闇の中で静かに輝いている。
レグルスはゆっくり顔を向けた。
崩れた岩の向こう。
そこに何かがあった。
近付く。
そして息を呑む。
銀色の箱だった。
大きさは人の胴体ほど。
古びた意匠が刻まれている。
だが不思議なことに、傷や汚れがほとんど見当たらない。
谷底に放置されていたとは思えないほど静かな輝きを放っていた。
まるで時間だけがそこを避けて流れていたようだった。
「何だ……これ」
自然と声が漏れる。
その瞬間だった。
首元が熱を帯びる。
レグルスは胸元を掴んだ。
ペンダントだった。
ルクスの遺品。
今までにないほど強く光っている。
箱も光る。
ペンダントも光る。
まるで互いを呼び合うように。
レグルスは鼓動が速くなるのを感じた。
偶然じゃない。
理由がある。
そんな確信だけが胸の中に生まれる。
ゆっくり手を伸ばした。
そして銀色の箱へ触れる。
瞬間。
世界が光に包まれた。
視界が真っ白になる。
音も消える。
重力も消える。
何もかもが消えた。
そして次に目を開いた時。
そこは谷底ではなかった。
白い世界だった。
空も地面もない。
境界もない。
どこまでも続く光だけの世界。
静寂だけが広がっている。
そして。
その中心に一人の少年が立っていた。
白い髪。
穏やかな瞳。
不思議な安心感を持つ存在。
レグルスは息を呑む。
見たことがある。
直接ではない。
写真で。
記録で。
何度も。
「……ルクス」
少年は静かに微笑んだ。
まるで昔から知っていた友人に会ったように。
やっと来たか
その一言で。
レグルスは自分が本当にルクスと向き合っていることを理解した。
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