「決裂の果て」
レグルスとルカが再会してから数分が過ぎていた。
夕陽はさらに傾き、廃研究施設の内部を赤く染めている。静かな空間だった。だが二人の間に流れる空気は張り詰めていた。
レグルスは一歩も引かない。
ルカも視線を逸らさない。
互いに何を考えているか分からないほど長い沈黙が続く。
先に口を開いたのはルカだった。
「何でそこまで俺に構うんだ」
疲れ切った声だった。
怒りではない。
苛立ちでもない。
ただ理解できないという声だった。
レグルスは迷わず答える。
「友達だからだ」
ルカは苦笑する。
「まだそんなこと言うのか」
「言うよ」
「俺はお前を傷付けた」
「知ってる」
「病院送りにした」
「知ってる」
「またやるかもしれない」
「それでもだ」
ルカの表情が歪む。
レグルスは続けた。
「お前は本当はこんなことしたくないんだろ」
「黙れ」
「本当は助けを求めてるんだろ」
「黙れ」
「だったら――」
「黙れって言ってるだろ!!」
轟音が響いた。
黒い衝撃波が床を砕く。
コンクリートが吹き飛ぶ。
レグルスは咄嗟に飛び退いた。
さっきまで立っていた場所が抉れている。
ルカは肩で息をしていた。
インペリアルレリックが黒く発光している。
まるで怒りに反応するように。
「もう帰れ」
「帰らない」
「帰れ!!」
「嫌だ!!」
ルカの瞳が揺れる。
レグルスも叫ぶ。
今までずっと抑えていた感情が溢れていた。
「お前が苦しんでるのが分かるんだよ!」
「分かるわけない!」
「分かる!」
「分からない!!」
衝撃波。
床が割れる。
壁が砕ける。
施設全体が震える。
ルカは止まらない。
いや。
止まれない。
胸の奥から黒い力が溢れ続けている。
「俺は弱かった!」
叫び声が響く。
「何も守れなかった!」
さらに衝撃波が放たれる。
「だから力が欲しかった!」
「だから手に入れた!」
「何が悪い!!」
レグルスは正面から叫び返した。
「その力がお前を殺してるんだろ!!」
その言葉にルカの身体が止まる。
一瞬だけ。
だがそれだけだった。
黒い光が爆発的に膨れ上がる。
インペリアルレリックが強く脈動した。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
まるで生きているように。
ルカの表情が苦痛に歪む。
「うるさい……」
小さく呟く。
「うるさい……」
そして。
「うるさいんだよおおおおお!!」
黒い光が施設を埋め尽くした。
轟音。
爆風。
視界が消える。
レグルスは吹き飛ばされた。
壁に激突する。
肺の空気が抜ける。
痛い。
だが立ち上がる。
まだ終われない。
ルカを止めなければ。
レグルスは前へ出る。
何度吹き飛ばされても。
何度叩き付けられても。
前へ出る。
ルカの瞳が揺れる。
理解できなかった。
なぜ立ち上がる。
なぜ逃げない。
なぜ戦わない。
「何でだよ!」
ルカが叫ぶ。
「何で反撃しないんだよ!!」
レグルスは血を吐きながら笑った。
「だって友達だからだろ」
その瞬間。
ルカの顔が崩れた。
まるで殴られたようだった。
だが。
インペリアルレリックは止まらない。
黒い光が腕を包む。
身体を動かす。
そして。
ルカの意思とは関係なく。
巨大な衝撃波が放たれた。
轟。
世界が揺れる。
レグルスは正面から直撃を受けた。
身体が宙に浮く。
吹き飛ぶ。
施設の壁を突き破る。
岩盤を砕く。
そして。
崖の外へ。
落ちた。
時間が止まる。
夕陽が見える。
空が見える。
遠ざかる施設が見える。
そして。
ルカの顔が見えた。
親友の顔だった。
怒りではない。
憎しみでもない。
絶望だった。
レグルスの身体は闇の中へ落ちていく。
どこまでも。
どこまでも。
やがて視界が暗くなる。
意識も遠のく。
最後に聞こえたのは。
ルカの声だった。
「レグルス!!」
悲鳴のような叫び。
それが最後だった。
―――
崖の上。
ルカは膝をついていた。
身体が震えている。
呼吸が乱れる。
目の前には何もない。
ただ深い谷が広がっているだけだった。
落ちた。
親友が。
自分のせいで。
ルカは崖へ近付く。
だが足が動かない。
怖かった。
確認するのが。
もし本当に死んでいたら。
その時だった。
頭の中で声が響く。
今までで最も鮮明な声だった。
――邪魔者は排除された。
ルカの瞳が見開く。
「……誰だ」
返事はない。
だが確かに聞こえた。
――邪魔者は排除された。
――計画は順調だ。
――復活の日は近い。
ルカの背筋を冷たいものが走る。
インペリアルレリックが黒く脈動する。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
まるで笑っているようだった。
そして谷の底。
誰も知らない深い闇の中で。
落下したレグルスの身体が、何か硬いものにぶつかった。
砕けた岩の下。
長い年月埋もれていた銀色の箱。
その中心から。
淡い光が漏れ始めていた。
まるで。
誰かを待ち続けていたかのように。
面白ければブックマーク、評価お願いします




