「再会」
ペンダントが光った翌日から、レグルスは毎日その反応を追い続けていた。最初は気のせいだと思った。だが違った。光は確かに方向を示していた。強くなったり弱くなったりしながらも、必ず同じ方角を向いている。偶然ではない。レグルスはそう確信していた。
学校が終わるとすぐに街を出る。休日は朝から夜まで歩き続ける。森を越え、山道を登り、人のいない場所を探し続けた。身体はまだ完全には治っていない。右腕を動かせば痛みが走る。だが止まる気はなかった。ルカを見つけるまでは。
五日目の夕方だった。
山奥の古い林道を歩いていた時、ペンダントの光が急に強くなった。
レグルスは足を止める。
胸元が熱い。
今までで一番強い反応だった。
鼓動が速くなる。
そして視界の先に何かが見えた。
森の奥。
木々の隙間。
コンクリートの壁。
古びた建物だった。
レグルスは息を呑む。
廃研究施設。
何十年も前に閉鎖された施設だと聞いたことがある。
こんな場所に人が住めるはずがない。
だがペンダントの光は消えない。
むしろ強くなっている。
レグルスはゆっくり歩き出した。
建物は想像以上に大きかった。窓ガラスは割れ、外壁は崩れかけている。人の気配などないように見える。
だが入口の近くまで来た時だった。
足跡を見つけた。
新しい。
最近付いたものだ。
レグルスの心臓が跳ねる。
間違いない。
誰かがいる。
そしておそらくその誰かは。
施設の中は薄暗かった。天井の照明はほとんど壊れている。静寂だけが支配していた。レグルスは慎重に進む。足音だけが響く。
やがて広い空間へ出た。
かつて実験場だったのだろう。
天井は高く、中央には大きな空間がある。
そして。
そこに一人の少年がいた。
黒い髪。
痩せた身体。
背中だけでも分かった。
「ルカ」
声が漏れる。
少年の肩が僅かに震えた。
ゆっくり振り返る。
その顔を見た瞬間、レグルスは言葉を失った。
変わっていた。
あまりにも。
顔色は青白い。
目の下の隈はさらに濃くなっている。
頬も痩せていた。
まるで何年も病気を患っている人間のようだった。
だが目だけは違う。
以前より鋭くなっている。
危ういほどに。
「……何で来た」
ルカが言う。
声も少し掠れていた。
レグルスは答えない。
代わりに一歩近付く。
ルカは眉をひそめた。
「来るな」
「嫌だ」
「帰れ」
「帰らない」
短いやり取りだった。
だが以前とは違う。
怒鳴り合いにならない。
二人とも疲れていた。
ルカは視線を逸らす。
「見ただろ」
レグルスは黙る。
「俺は危ないんだよ」
小さな声だった。
レグルスは初めて聞いた。
ルカが弱音を吐くのを。
「お前を傷付けた」
「……」
「もう一回やったらどうする」
「……」
「次は死ぬかもしれない」
ルカは拳を握る。
震えていた。
怒りではない。
恐怖だった。
「だから帰れ」
その言葉を聞いて、レグルスはようやく理解する。
ルカは自分を拒絶しているわけではなかった。
守ろうとしていたのだ。
間違ったやり方で。
一人で全部抱え込んで。
苦しみながら。
それでも。
レグルスは首を横に振る。
「嫌だ」
ルカが睨む。
「なんでだよ」
「友達だからだ」
「そんな理由で来るな」
「そんな理由だから来たんだ」
ルカは何も言えなくなる。
沈黙が落ちる。
風が吹き込む。
割れた窓が軋む。
夕陽が差し込み、長い影を作っていた。
レグルスはさらに一歩前へ出た。
「帰ろう」
ルカは笑った。
乾いた笑いだった。
「無理だ」
「できる」
「できない」
「できる」
「できない!」
ルカの声が響く。
その瞬間だった。
黒い光が身体から漏れる。
空気が震える。
床に亀裂が走る。
レグルスは反射的に後退した。
ルカ自身も驚いていた。
力が漏れている。
制御できていない。
黒い光は数秒で消えた。
だが十分だった。
レグルスは見てしまった。
ルカの身体が限界に近付いていることを。
ルカは顔を伏せる。
「ほらな」
小さく言う。
「もう無理なんだよ」
その声は諦めそのものだった。
だがレグルスは違った。
逆に決意が固まる。
絶対に放っておけない。
絶対に助ける。
その思いだけが強くなる。
夕陽はゆっくり沈んでいく。
二人の間にある距離はまだ遠い。
けれど初めて再会できた。
そして二人はまだ知らない。
この再会を境に、運命が大きく動き始めることを。
インペリアルレリックの奥で眠る意思が目を開き始めていることを。
そして十年の沈黙を破り、ゼルクロノス復活への時計が加速し始めていることを。
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