「繋がる力」
校舎崩落事故から数日が過ぎていた。しかし街の人々の話題は未だにあの出来事だった。奇跡的に全員が助かったこと。ルカが瓦礫を押し退けて多くの生徒を救ったこと。そしてレグルスが崩落の直前に異変へ気付いていたこと。噂は少しずつ形を変えながら広がっていた。
だが当の本人たちは、その話題から遠ざかるように過ごしていた。
ルカは相変わらず一人だった。授業が終わればすぐに帰り、誰とも関わらない。以前はレグルスだけは例外だった。しかし今はその例外すら消えつつある。
レグルスは何度も話しかけようとした。だが、その度に距離を感じた。
昔は違った。
二人とも虚弱体質だった。運動も苦手で、すぐに倒れていた。周囲から笑われることもあった。
それでも二人なら平気だった。
弱い者同士だったからだ。
だからレグルスには分からなかった。
なぜこんなにも離れてしまったのか。
放課後、レグルスは一人で街外れを歩いていた。考え事をしたい時によく来る場所だった。森へ続く古い遊歩道。人通りも少ない。
そこで突然、悲鳴が聞こえた。
「誰か!」
反射的に走る。
声の方向へ向かうと、小さな荷物運搬車が坂道を暴走していた。荷台には資材が大量に積まれている。その進路の先には転んだ少女がいた。
距離が遠い。
間に合わない。
レグルスは走る。
だが分かる。
間に合わない。
その瞬間だった。
胸の奥で何かが脈打った。
熱い。
光ではない。
感覚だった。
レグルスの視界に、運搬車と街灯が映る。
なぜか分からない。
だが手を伸ばした。
「止まれ!」
その瞬間。
空気が震えた。
運搬車と街灯の間に、見えない何かが繋がった。
次の瞬間。
運搬車が急停止した。
まるで巨大な鎖に引っ張られたように。
積まれていた資材が崩れ落ちる。
しかし少女には届かない。
静寂。
周囲の人々が固まる。
レグルス自身も固まっていた。
何が起きた。
理解できない。
運搬車は街灯に接触していない。
ロープもない。
だが確かに繋がっていた。
頭の中に感覚だけが残る。
二つの物を結び付けた感覚。
少女の母親らしき女性が駆け寄ってくる。
「ありがとう!」
レグルスは何も答えられなかった。
礼を言われても、自分が何をしたのか分からなかったからだ。
その夜。
レグルスは眠れなかった。
何度も思い出す。
あの感覚。
運搬車。
街灯。
そして繋がったという確信。
部屋の机を見る。
試しにペンと本へ意識を向ける。
何も起きない。
もう一度集中する。
すると微かに胸が熱くなった。
次の瞬間。
ペンが本へ吸い寄せられるように動いた。
カタン。
小さな音。
レグルスは目を見開く。
「できた……」
能力。
それ以外に説明がつかなかった。
だが派手ではない。
物を動かせるわけでもない。
破壊できるわけでもない。
飛べるわけでもない。
ただ物と物を繋ぐだけ。
レグルスはしばらく黙り込んだ。
そして苦笑する。
「これで世界を救うのか……」
あまりにも小さい。
あまりにも地味だった。
それでも不思議と嫌ではなかった。
なぜなら初めてだったからだ。
自分だけの力。
自分だけの可能性。
その頃。
ルカは街外れの採掘跡地にいた。
巨大な岩壁が並ぶ荒野。
人はいない。
ルカはハルバードを構える。
そして振り下ろした。
轟音。
岩壁が真っ二つになる。
さらに振る。
さらに砕ける。
数日前とは比較にならない威力だった。
インペリアルレリック。
その力は確実に増している。
ルカは息を吐く。
強くなる感覚が心地良かった。
弱かった頃の自分が遠ざかる。
病弱で何もできなかった自分。
誰かに守られるだけだった自分。
そんな存在を捨てていける。
だが次の瞬間だった。
再び激痛が走る。
頭の奥が焼けるように痛む。
視界が歪む。
そして見えた。
黒い世界。
無数の星。
崩壊した都市。
炎。
悲鳴。
そして玉座。
そこに座る巨大な影。
顔は見えない。
だが分かる。
圧倒的だった。
存在そのものが違う。
ルカは膝をつく。
映像は数秒で消えた。
しかし以前より鮮明だった。
まるで少しずつ近付いているようだった。
「なんなんだ……」
返事はない。
だがインペリアルレリックが微かに脈打つ。
まるで喜んでいるかのように。
翌日。
学校の帰り道。
レグルスは偶然ルカを見つけた。
以前なら迷わなかった。
今は違う。
少しだけ躊躇する。
それでも追いかけた。
「ルカ!」
ルカが立ち止まる。
振り返らない。
「なんだ」
「話がある」
「ない」
「ある」
沈黙。
レグルスは続ける。
「最近変だよ」
「そうか」
「前みたいに戻れないのか」
ルカはようやく振り返った。
その目は冷たかった。
だが怒ってはいない。
むしろ諦めに近かった。
「戻る必要があるのか」
レグルスは言葉を失う。
ルカは続ける。
「人は一人で立たなきゃいけない」
「違う」
「違わない」
「僕はそう思わない」
「だからお前は弱い」
その言葉が刺さる。
しかしレグルスは目を逸らさなかった。
「弱くてもいい」
ルカの眉が動く。
レグルスは続ける。
「一人になる方が嫌だ」
風が吹く。
長い沈黙。
そしてルカは小さく笑った。
昔の笑い方ではない。
どこか寂しい笑みだった。
「やっぱり分かり合えないな」
そう言って歩き出す。
レグルスは追わなかった。
追っても意味がないと分かったからだ。
だが諦めたわけではない。
絶対に違う。
ルカは本当はこんな人間じゃない。
そう信じていた。
その夜。
ルカが去った道を一人で歩きながら、レグルスは拳を握る。
胸の奥で能力が微かに反応する。
物と物を繋ぐ力。
今はまだ小さい。
世界なんて救えない。
誰かの心を繋ぐこともできない。
それでもレグルスは思った。
いつか必ず届かせる。
離れてしまった親友にも。
バラバラになった人々にも。
その決意を抱いた瞬間、エターナルリンクが微かに輝いた。
そして遠く離れた場所で、インペリアルレリックもまた脈打っていた。
まるで二つの運命が、避けられない衝突へ向かって動き始めたかのように。
面白ければブックマーク、評価お願いします




