表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/151

「繋がる力」

校舎崩落事故から数日が過ぎていた。しかし街の人々の話題は未だにあの出来事だった。奇跡的に全員が助かったこと。ルカが瓦礫を押し退けて多くの生徒を救ったこと。そしてレグルスが崩落の直前に異変へ気付いていたこと。噂は少しずつ形を変えながら広がっていた。


だが当の本人たちは、その話題から遠ざかるように過ごしていた。


ルカは相変わらず一人だった。授業が終わればすぐに帰り、誰とも関わらない。以前はレグルスだけは例外だった。しかし今はその例外すら消えつつある。


レグルスは何度も話しかけようとした。だが、その度に距離を感じた。


昔は違った。


二人とも虚弱体質だった。運動も苦手で、すぐに倒れていた。周囲から笑われることもあった。


それでも二人なら平気だった。


弱い者同士だったからだ。


だからレグルスには分からなかった。


なぜこんなにも離れてしまったのか。


放課後、レグルスは一人で街外れを歩いていた。考え事をしたい時によく来る場所だった。森へ続く古い遊歩道。人通りも少ない。


そこで突然、悲鳴が聞こえた。


「誰か!」


反射的に走る。


声の方向へ向かうと、小さな荷物運搬車が坂道を暴走していた。荷台には資材が大量に積まれている。その進路の先には転んだ少女がいた。


距離が遠い。


間に合わない。


レグルスは走る。


だが分かる。


間に合わない。


その瞬間だった。


胸の奥で何かが脈打った。


熱い。


光ではない。


感覚だった。


レグルスの視界に、運搬車と街灯が映る。


なぜか分からない。


だが手を伸ばした。


「止まれ!」


その瞬間。


空気が震えた。


運搬車と街灯の間に、見えない何かが繋がった。


次の瞬間。


運搬車が急停止した。


まるで巨大な鎖に引っ張られたように。


積まれていた資材が崩れ落ちる。


しかし少女には届かない。


静寂。


周囲の人々が固まる。


レグルス自身も固まっていた。


何が起きた。


理解できない。


運搬車は街灯に接触していない。


ロープもない。


だが確かに繋がっていた。


頭の中に感覚だけが残る。


二つの物を結び付けた感覚。


少女の母親らしき女性が駆け寄ってくる。


「ありがとう!」


レグルスは何も答えられなかった。


礼を言われても、自分が何をしたのか分からなかったからだ。


その夜。


レグルスは眠れなかった。


何度も思い出す。


あの感覚。


運搬車。


街灯。


そして繋がったという確信。


部屋の机を見る。


試しにペンと本へ意識を向ける。


何も起きない。


もう一度集中する。


すると微かに胸が熱くなった。


次の瞬間。


ペンが本へ吸い寄せられるように動いた。


カタン。


小さな音。


レグルスは目を見開く。


「できた……」


能力。


それ以外に説明がつかなかった。


だが派手ではない。


物を動かせるわけでもない。


破壊できるわけでもない。


飛べるわけでもない。


ただ物と物を繋ぐだけ。


レグルスはしばらく黙り込んだ。


そして苦笑する。


「これで世界を救うのか……」


あまりにも小さい。


あまりにも地味だった。


それでも不思議と嫌ではなかった。


なぜなら初めてだったからだ。


自分だけの力。


自分だけの可能性。


その頃。


ルカは街外れの採掘跡地にいた。


巨大な岩壁が並ぶ荒野。


人はいない。


ルカはハルバードを構える。


そして振り下ろした。


轟音。


岩壁が真っ二つになる。


さらに振る。


さらに砕ける。


数日前とは比較にならない威力だった。


インペリアルレリック。


その力は確実に増している。


ルカは息を吐く。


強くなる感覚が心地良かった。


弱かった頃の自分が遠ざかる。


病弱で何もできなかった自分。


誰かに守られるだけだった自分。


そんな存在を捨てていける。


だが次の瞬間だった。


再び激痛が走る。


頭の奥が焼けるように痛む。


視界が歪む。


そして見えた。


黒い世界。


無数の星。


崩壊した都市。


炎。


悲鳴。


そして玉座。


そこに座る巨大な影。


顔は見えない。


だが分かる。


圧倒的だった。


存在そのものが違う。


ルカは膝をつく。


映像は数秒で消えた。


しかし以前より鮮明だった。


まるで少しずつ近付いているようだった。


「なんなんだ……」


返事はない。


だがインペリアルレリックが微かに脈打つ。


まるで喜んでいるかのように。


翌日。


学校の帰り道。


レグルスは偶然ルカを見つけた。


以前なら迷わなかった。


今は違う。


少しだけ躊躇する。


それでも追いかけた。


「ルカ!」


ルカが立ち止まる。


振り返らない。


「なんだ」


「話がある」


「ない」


「ある」


沈黙。


レグルスは続ける。


「最近変だよ」


「そうか」


「前みたいに戻れないのか」


ルカはようやく振り返った。


その目は冷たかった。


だが怒ってはいない。


むしろ諦めに近かった。


「戻る必要があるのか」


レグルスは言葉を失う。


ルカは続ける。


「人は一人で立たなきゃいけない」


「違う」


「違わない」


「僕はそう思わない」


「だからお前は弱い」


その言葉が刺さる。


しかしレグルスは目を逸らさなかった。


「弱くてもいい」


ルカの眉が動く。


レグルスは続ける。


「一人になる方が嫌だ」


風が吹く。


長い沈黙。


そしてルカは小さく笑った。


昔の笑い方ではない。


どこか寂しい笑みだった。


「やっぱり分かり合えないな」


そう言って歩き出す。


レグルスは追わなかった。


追っても意味がないと分かったからだ。


だが諦めたわけではない。


絶対に違う。


ルカは本当はこんな人間じゃない。


そう信じていた。


その夜。


ルカが去った道を一人で歩きながら、レグルスは拳を握る。


胸の奥で能力が微かに反応する。


物と物を繋ぐ力。


今はまだ小さい。


世界なんて救えない。


誰かの心を繋ぐこともできない。


それでもレグルスは思った。


いつか必ず届かせる。


離れてしまった親友にも。


バラバラになった人々にも。


その決意を抱いた瞬間、エターナルリンクが微かに輝いた。


そして遠く離れた場所で、インペリアルレリックもまた脈打っていた。


まるで二つの運命が、避けられない衝突へ向かって動き始めたかのように。


面白ければブックマーク、評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ