「インフィニティスパイラル」
地底都市は崩壊していた。
炎が上がる。
建物が崩れる。
人々の悲鳴が響く。
その中心でルクスは倒れていた。
全身が砕けている。
呼吸もまともにできない。
視界も霞んでいた。
それでも意識だけは消えなかった。
目の前には終焉超時空魔皇帝ゼルクロノスが立っている。
圧倒的だった。
勝てない。
そんなことは最初から分かっていた。
スパイラルは通じない。
攻撃も届かない。
実力差は絶望的だった。
それでもルクスは立ち上がろうとする。
腕が震える。
脚が消し飛んでいる
血が溢れ出し骨が飛び出る
その瞬間だった。
夢が聞こえた。
最初は一人だった。
花屋になりたい少女。
研究者になりたい少年。
地上を見たい老人。
農場を作りたい男。
歌手になりたい女の子。
その全てが聞こえてくる。
ルクスは昔から夢が聞こえていた。
だから知っている。
夢は人を生かす。
夢は明日へ進ませる。
夢は希望そのものだ。
だから守りたかった。
ただそれだけだった。
ゼルクロノスが近づく。
巨大な影がルクスを覆う。
「終わりだ」
その言葉が響く。
だがルクスは笑った。
不思議だった。
恐怖はなかった。
代わりに理解があった。
今までずっと探していたもの。
回転の核心。
その答えがようやく見えた。
回転とは何か。
螺旋とは何か。
終わりなく続くもの。
止まらないもの。
未来へ進み続けるもの。
それは夢と同じだった。
消えそうになっても。
折れそうになっても。
人はまた前を向く。
何度でも。
何度でも。
その瞬間。
ルクスの身体から光が溢れた。
スパイラルが暴走する。
いや違う。
進化だった。
回転が加速する。
さらに加速する。
限界を超えて加速する。
地面が砕ける。
空間が歪む。
レギオンたちが後退する。
ゼルクロノスの瞳が初めて揺れた。
「何だ……それは」
ルクスは立ち上がる。
身体が回転している。
血液も。
骨も。
魂すらも。
全てが回転していた。
そして理解する。
これを使えば勝てる。
だが。
戻れない。
その事実も同時に理解した。
使った瞬間。
自分自身も回転へ飲み込まれる。
人間ではいられなくなる。
それでも。
迷いはなかった。
後ろを見る。
そこには守りたかった人たちがいる。
泣いている少女。
震える少年。
生きたいと願う人々。
夢がある人々。
ルクスは笑った。
「大丈夫だ」
誰に向けた言葉か分からない。
けれど自然に出た。
「夢は守る」
そして右手を前へ出す。
無限回転が生まれる。
それは今までのスパイラルではなかった。
終わらない回転。
永遠に続く螺旋。
インフィニティスパイラル。
ゼルクロノスが初めて動く。
巨大な翼が広がる。
無数の腕が振り下ろされる。
天地が揺れる。
だが遅かった。
ルクスは拳を振るう。
インフィニティスパイラルが放たれる。
命中。
その瞬間だった。
ゼルクロノスの身体が回転へ飲み込まれる。
終わらない。
止まらない。
どれだけ抵抗しても追い続ける。
どれだけ逃げても追い続ける。
どれだけ能力を使っても追い続ける。
永遠に。
無限に。
終わりなく。
ゼルクロノスが初めて叫んだ。
怒りでもない。
恐怖だった。
終焉超時空魔皇帝が。
初めて恐怖した。
そして。
無限回転はゼルクロノスを完全に飲み込む。
身体が崩れる。
存在が砕ける。
魂が分解される。
やがて何も残らなくなった。
静寂。
レギオンたちは動きを止める。
そして次々と崩壊していく。
侵略軍は消えた。
戦いは終わった。
地球は救われた。
人々の歓声が響く。
泣き声も聞こえる。
笑顔もある。
誰もが勝利を理解していた。
だが。
ルクスだけが立ったままだった。
身体が消えていく。
違う。
消えているのではない。
回転になっている。
指先が光へ変わる。
腕が螺旋へ変わる。
身体そのものが無限回転へ溶け込んでいく。
少女が叫んだ。
「ルクス!」
研究者になりたい少年も叫ぶ。
避難民たちも手を伸ばす。
だが届かない。
ルクスは理解していた。
もう戻れない。
インフィニティスパイラルはゼルクロノスだけではなく。
使用者も巻き込む。
最終的に回転そのものへ変えてしまう。
それが代償だった。
ルクスは空を見上げる。
不思議と後悔はなかった。
守れたからだ。
みんなの夢を。
守りたかった未来を。
それだけで十分だった。
身体が完全に光へ変わる。
回転が空へ昇る。
どこまでも。
どこまでも。
そして最後にルクスは笑った。
「みんな……夢を叶えろよ」
その言葉を残して。
ルクスは人ではなくなった。
インフィニティスパイラルとなった。
それから十年後。
夢を叶えた人がいる
花屋になった少女がいる。
だが花は地上には無くなった。
それでも彼女は花屋であり続ける
研究者になった少年がいる。
研究する物も消し飛んだ
だが研究者であり続ける
夢は叶った
でも世界のルールが変わってしまった
だから夢の意味が共有できなくなった
その結果、人の心が分断された
テレビでは十年前の英雄について特集していた。
世界を救った少年。
ルクス。
それを見ていた一人の少年が立ち上がる。
目を輝かせながら言った。
「次に世界を救うのは僕だ」
空には風が吹いていた。
どこか遠くで。
まるで祝福するように。
螺旋が静かに回り続けていた。
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