「終焉超時空魔皇帝」
空が割れた。
その瞬間だった。
地底都市全体が静まり返る。
戦っていたレギオンたちですら動きを止めた。
誰もが上を見る。
赤く染まった空。
その中心。
黒い亀裂がゆっくりと広がっていく。
そして現れた。
最初に見えたのは巨大な角だった。
次に無数の腕。
黄金と深紅が混ざり合った異形の装甲。
竜のような尾。
世界そのものを覆い尽くすような翼。
その姿を見た瞬間、人々は理解した。
あれは生物ではない。
怪物ですらない。
もっと別の何かだ。
存在しているだけで恐怖を生み出す災害。
それが空から降りてくる。
レギオンたちが一斉に跪いた。
数万。
数十万。
視界に映る全てのレギオンが頭を垂れる。
そして響く。
「終焉超時空魔皇帝ゼルクロノス様」
その名前だけで空気が震えた。
ルクスは拳を握る。
身体が震えていた。
恐怖だった。
本能が逃げろと叫んでいる。
勝てない。
そんなことは見た瞬間に分かる。
それでも。
ルクスは前へ出た。
後ろでは避難民たちがこちらを見ている。
少女がいる。
花屋になりたいと言った子だ。
研究者になりたい少年もいる。
地上を見たいと言った老人もいる。
みんな夢を持っている。
だから。
ルクスは逃げない。
ゼルクロノスの巨大な瞳がゆっくりとルクスを見た。
それだけだった。
ただ見ただけ。
なのに全身が重くなる。
足が沈む。
呼吸が苦しい。
存在そのものに押し潰されそうだった。
「お前がルクスか」
声が響く。
耳ではない。
頭の中へ直接流れ込んでくる。
ルクスは睨み返した。
「お前が全部やったのか」
ゼルクロノスは答えない。
ただ地底都市を見下ろしている。
まるで蟻の巣でも見るように。
「夢を奪うな」
ルクスは叫んだ。
「みんなには未来がある!」
その瞬間。
スパイラルを発動する。
回転が唸る。
今までで最大。
空気が捻じれる。
大地が砕ける。
ルクスは一直線に飛び出した。
拳を振るう。
回転をまとった一撃。
地底都市を守るための全力。
しかし。
届かなかった。
ゼルクロノスは動いていない。
避けてもいない。
ただ立っているだけだった。
それなのに回転が消えた。
ルクスの目が見開かれる。
スパイラルが。
弾かれた。
ありえない。
初めてだった。
ルクスはさらに攻撃する。
何度も。
何度も。
回転を叩き込む。
だが結果は同じだった。
届かない。
まるで世界そのものが拒絶している。
ゼルクロノスは静かに言う。
「弱い」
その一言だけだった。
次の瞬間。
ルクスの身体が吹き飛ぶ。
何をされたのか分からない。
視界が回転する。
壁を突き破る。
岩盤が砕ける。
血が飛ぶ。
全身が悲鳴を上げる。
それでも立つ。
立ち上がる。
夢を守るために。
「まだだ」
足が震える。
骨が軋む。
それでも前へ出る。
ゼルクロノスは初めて少しだけ興味を示した。
「なぜ立つ」
ルクスは笑った。
血まみれだった。
それでも笑った。
「決まってる」
後ろを見た。
避難民たち。
泣いている子供。
震えている大人。
それでも生きようとしている人たち。
「みんなの夢を守りたいからだ」
沈黙。
ゼルクロノスは何も言わない。
だがその巨大な瞳がルクスを見ている。
ルクスは再び踏み出した。
身体は限界だった。
もうまともに戦えない。
それでも止まらない。
止まれない。
夢を守ると決めたから。
その瞬間だった。
身体の奥で何かが動く。
回転。
今までとは違う。
もっと深い。
もっと根源的な何か。
ルクスは目を見開いた。
一瞬だけ見えた。
回転のさらに奥。
今まで触れられなかった領域。
だが次の瞬間。
ゼルクロノスの一撃が降ってくる。
轟音。
地底都市が崩れる。
大地が割れる。
避難民たちの悲鳴が響く。
ルクスは吹き飛ばされた。
もう立てない。
身体が動かない。
視界も霞む。
敗北だった。
完全な敗北だった。
だが。
意識が消えそうになるその瞬間。
ルクスは見た。
少女が泣いている。
花屋になりたいと言った少女。
その夢。
研究者になりたい少年の夢。
地上を見たい老人の夢。
みんなの夢。
それが消えようとしている。
嫌だった。
絶対に嫌だった。
そのとき。
身体の奥にあった回転が。
ゆっくりと動き始めた。
まるで目覚めるように。
そしてルクスは最後の力で拳を握る。
「まだ……終わらない」
その言葉を聞いて。
ゼルクロノスは初めて笑った。
「面白い」
終焉超時空魔皇帝が。
初めてルクスという存在を認識した瞬間だった。
そして世界は。
次の戦いへ進む。
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