「概念への一撃」
サナージュは洞窟を出ると静かに空を見上げた。風が吹く。木々が揺れる。世界は何も変わっていないように見えた。
「変わってない。」
サナージュは拳を握る。
「でも俺は変わった。」
五分間の無敵。
そしてどんな存在にも攻撃を届かせる力。
サナージュはゆっくりと目を閉じた。
「ゼルクロノス。」
その姿は知らない。
どこにいるかも分からない。
それでも情報は頭に流れ込んでいた。
「別宇宙。」
サナージュは深く息を吸う。
「そこにいるんだな。」
無敵を発動する。
ドクン。
鼓動が変わる。
世界の色が変わる。
全身が黄金色の光に包まれた。
サナージュは拳を前へ突き出す。
「届け。」
目の前には誰もいない。
それでもサナージュはゼルクロノスだけを思い浮かべる。
「俺たちをこんな目に遭わせた奴。」
「全部返してもらう。」
拳を振る。
ドォォォォンッ!!
何もない空間が砕ける。
空そのものに巨大な亀裂が走った。
世界中へ衝撃波が広がる。
鳥が飛び立つ。
山が揺れる。
海が波立つ。
そしてその一撃は宇宙を越えた。
時間を越えた。
世界を越えた。
別宇宙。
そこには一人の存在が立っていた。
世界そのもののような存在。
終焉そのもの。
ゼルクロノス。
その前へサナージュの拳撃が現れる。
「……。」
ゼルクロノスは静かにその攻撃を見る。
攻撃は確かに届いていた。
あと少し。
あとほんの少しで当たる距離だった。
だが。
攻撃は止まった。
ピクリとも動かない。
ゼルクロノスの周囲には見えない壁があった。
無敵。
制限のない絶対の無敵。
サナージュの拳はその壁の前で止められた。
ゼルクロノスはゆっくりとサナージュのいる世界へ視線を向ける。
「見つけた。」
その一言だけだった。
サナージュは全身が凍り付くような感覚に襲われた。
「……え。」
目が合った。
何億もの宇宙を隔てているはずなのに。
確かに目が合った。
「まずい。」
逃げようとした。
その瞬間だった。
ゼルクロノスは指を軽く動かしただけだった。
それだけで世界が黒く染まる。
サナージュの体が浮いた。
「あ……。」
呼吸ができない。
骨が軋む。
意識が潰される。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫ぶことしかできなかった。
世界が崩れていく。
空も。
山も。
海も。
何もかもが黒へ飲み込まれる。
「こんなの……。」
サナージュは歯を食いしばる。
「勝てるわけ……。」
意識が途切れる。
最後に見えたのはゼルクロノスの瞳だった。
次の瞬間。
サナージュは目を開けた。
「……え?」
目の前には見覚えのある森。
柔らかな風。
小鳥の鳴き声。
足元には、一つの隕石。
「なんだ……これ。」
自分の手を見る。
小さい。
十歳の頃の手だった。
服も。
体も。
何もかもが昔に戻っている。
「戻った……?」
サナージュは周囲を見回す。
「ここは……。」
見覚えがあった。
全ての始まり。
隕石を見つけたあの日だった。
「なんで。」
理解が追いつかない。
「俺は……。」
そこでサナージュは気付く。
「やり直してる。」
その言葉を口にした瞬間、森の奥から何かが高速で飛んできた。
回転する一本の矢だった。
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