「姉」
サナージュは誰にも何も告げずに集落を去った。朝日が昇る前、まだ誰も起きていない時間だった。洞窟へ続く山道を一人で歩きながら、足を止めることはなかった。もう戻るつもりはなかった。ささにも何も言わなかった。何を言われても、自分の決意は変わらないと思っていたからだ。洞窟へ辿り着くと、サナージュは岩にもたれ掛かって静かに目を閉じた。復讐のためだけに生きた一年。その一年が何だったのか分からなくなっていた。復讐相手はもう自分の手で殺していた。それに気付いてしまった今、生きる理由も分からなかった。
「……終わったんだ。」
誰もいない洞窟で呟いた声だけが響く。
「サナージュは何をしてきたんだ。」
返事はない。ただ冷たい風だけが吹き込んでくる。何日経ったのかも分からなかった。襲ってくる参加者だけを倒し、その死体を食べ、水を飲み、生き延びるだけの日々だった。最強と呼ばれても嬉しくなかった。誰も近寄らなくなっても何も感じなかった。ただ、生きているだけだった。
その頃、ささは必死にサナージュを探していた。森を歩き、川を渡り、山を登り、何度も傷を負いながら足を止めなかった。
「お願い……見つかって。」
返事はない。それでも探した。
「まだ謝ってないんだから。」
途中で何人もの参加者に襲われた。
「邪魔。」
ささは蹴りで一人を吹き飛ばし、拳で一人を倒した。しかし数が多すぎた。刃が腕を裂き、槍が腹を貫き、炎が体を焼いた。それでも立ち上がる。
「まだ……終われない。」
血を流しながら歩き続けた。そしてようやく見覚えのある洞窟を見つける。
「ここ……。」
足を引きずりながら中へ入る。
「サナージュ……。」
洞窟の奥でサナージュがゆっくり顔を上げた。
「……ささ?」
血まみれになった姿を見た瞬間、サナージュは立ち上がった。
「お、おい!どうしたんだよその傷!」
ささは力なく笑った。
「やっと……見つけた。」
「待ってろ!今治す!コレクションズは!」
サナージュは辺りを探す。しかし何もない。
「くそ……なんで……。」
ささは首を横に振った。
「もう……いい。」
「良くない!」
サナージュは震える手でささの傷口を押さえる。血は止まらない。
「死ぬな……お願いだから。」
ささはサナージュの手を優しく握った。
「聞いて。」
「嫌だ。」
「聞いて。」
サナージュは唇を噛み締めた。
「……。」
「ずっと言えなかった。」
ささは苦しそうに息を吸った。
「サナージュ。」
「うん。」
「あなたは……私の弟。」
サナージュは固まった。
「……え?」
「本当の……弟。」
「何を言って……。」
「お母さんが再婚して……あなたが生まれた。」
涙がささの頬を伝う。
「私は……嫉妬して……家を追い出されて……。」
サナージュは何も言えなかった。
「でも……あなたを見つけた時……守ろうって決めた。」
「そんな……。」
「ごめんね。」
サナージュの目から涙が溢れる。
「謝るなよ。」
「ごめん。」
「謝るなって!」
「弟で……いてくれて……ありがとう。」
ささの手から力が抜けた。
「ささ?」
返事はない。
「ささ。」
肩を揺する。
「起きろよ。」
動かない。
「ささ!」
叫び声だけが洞窟に響いた。
「姉ちゃん!!」
涙は止まらなかった。
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