「復讐の旅」
村は静まり返っていた。さっきまで燃え盛っていた炎も少しずつ勢いを失い、残ったのは焦げた木の匂いと灰だけだった。サナージュは村の入口に座り込み、何も考えられず炎を見つめていた。泣き続けたせいで涙はもう出なかった。胸の中にはぽっかり穴が開いたような感覚だけが残っていた
「……行こう」
静かな声が聞こえた。
「どこへ」
「ここにいても何も変わらない」
サナージュは村を見回した。帰る家はない。迎えてくれる人もいない。全部終わった。
「……そうだな」
ゆっくり立ち上がる。
「でも、その前に」
サナージュは村人達を埋葬することにした。ささも何も言わず手伝ってくれた。半日かけて穴を掘り、一人一人土をかぶせていく。最後に父と母を並べて眠らせた。
「ごめん」
その一言しか出なかった。
「守れなかった」
返事はない。
サナージュは墓の前で拳を握った。
「必ず仇は討つ」
風だけが吹いていた。
村を離れた俺達は森の中を歩き続けた。食料もほとんどない。水は川で飲むしかない。夜は木にもたれながら眠る生活だった。
「疲れた?」
「いや」
本当は疲れていた。でも立ち止まる気はなかった。
「復讐するには強くならなきゃいけない」
「その通り」
ささは少しだけ笑った。
「じゃあ今日も鍛えるよ」
「またかよ」
「また」
その日から毎日戦った。朝から晩まで戦った。殴られ、蹴られ、転ばされる。その度に立ち上がる。
「もっと速く」
「くっ!」
「遅い」
腹へ蹴りが入る。
「がはっ!」
吹き飛ばされても立つ。
サナージュはそう思った。だが諦めなかった。
「もう一回!」
「いい目になってきた」
それでも差は大きかった。一度も勝てない。
夜になると二人で焚き火を囲んだ。
「どうしてそんなに強いんだ」
「長く生き残ってるから」
「何人くらい倒した?」
「覚えてない」
その言葉は軽かった。でもその裏には数え切れない戦いがあったのだろう。
数日後、森の奥で気配を感じた。
「止まって」
サナージュ達は足を止める。
草むらが揺れる。
次の瞬間、一人の男が飛び出してきた。
「死ねぇ!」
斧を振り下ろす。
ドクン。
能力が発動した。
ガキィン!
斧が弾き返される。
「何!?」
男が驚いた隙に俺は拳を振るう。
ドゴッ!
男は木へ叩きつけられた。
「まだだ!」
男は再び突っ込んでくる。
しかし今度はささが前へ出た。
「終わり」
回し蹴り。
男の顎が砕ける。
そのまま地面へ倒れた。
「殺す?」
そう聞かれた。
サナージュは男を見る。
震えていた。
恐怖で涙を流していた。
「助けてくれ……」
サナージュは一瞬だけ迷う。
でも村の景色が頭をよぎった。
燃える家。
倒れていた父。
泣き叫ぶ母。
俺はナイフを抜いた。
「恨むなら、この世界を恨め」
ザシュッ。
血が飛び散る。
男は動かなくなった。
「……二人目か」
サナージュは手を見つめる。
震えていなかった。
自分でも驚いた。
人を殺した感覚に慣れ始めていた。
「危ないね」
「何が」
「心が」
その言葉の意味は分からなかった。
いや、分かろうとしなかった。
サナージュには復讐しか残っていない。
強くなる。
もっと強くなる。
そして村を焼いた犯人を見つけ出す。
そのためなら何人殺そうが構わない。
そう思いながら、サナージュは再び森の奥へ歩き始めた。
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