「焼け落ちた故郷」
森を抜けた瞬間、熱風が全身を包み込んだ。鼻を刺す焦げ臭い匂い。黒煙が空を覆い、赤い炎が夜空を染めている。サナージュは足を止めた。目の前にあるのは、もう俺の知っている村ではなかった。家は崩れ、畑は燃え、人々の笑い声は悲鳴へ変わっていた。
「そんな……」
信じられなかった。昨日まで当たり前にあった景色が、一瞬で消えてしまっていた。サナージュは夢中で走り出す。燃え盛る家々の間を駆け抜け、知っている人の姿を探す。
「母さん!」
返事はない。
「父さん!」
聞こえるのは燃える音だけだった。倒れている村人を見つける。肩を揺する。だが動かない。また一人。また一人。誰も返事をしてくれない。胸が締め付けられる。息が苦しい。それでもサナージュは探し続けた。
「まだ生きてる人がいるかもしれない!」
サナージュは炎の中へ飛び込もうとした。
「待ちなさい!」
腕を掴まれる。
「離せ!」
「今入ったらあなたまで死ぬ!」
「それでも行く!」
振り払おうとした、その瞬間だった。ヒュン、と風を裂く音が響いた。
「危ない!」
ささがサナージュを突き飛ばす。次の瞬間、光の球が俺の横を通り過ぎ、家屋を貫いた。轟音と共に木片が飛び散る、サナージュは地面を転がりながら立ち上がった。
「誰だ!」
炎の向こうに小さな人影が立っていた。さっきのやつだった。何も喋らない。ただ静かにこちらを見つめ、手のひらへ光を集めている。
「お前がやったのか!」
少女は答えない。光の球を放つ。それは一直線に俺へ向かって飛んできた。ドクン、と心臓が脈打つ。能力が発動した。光の球はサナージュへ触れた瞬間、甲高い音を立てて弾き返される。
「……っ」
少女の表情が僅かに揺れた。サナージュは一気に地面を蹴る。
「逃がすか!」
少女は後ろへ飛び退きながら次々と光の球を放つ。しかし全て弾かれる。サナージュは距離を詰めた。あと少しで届く。
「終わりだ!」
「待って!私じゃない!」
近くに落ちていたナイフを拾い、勢いのまま振り抜く。刃は少女の腹へ深く突き刺さった。
「……ぁ」
少女の身体が震える。俺は怒りのままナイフを引き抜いた。赤い血が飛び散る。少女は膝をつき、そのまま前へ倒れた。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をする。怒りしかなかった。村を焼いた。家族を殺した。だから殺した。ただそれだけだった。
「サナージュ……」
ささがゆっくり近付いてくる。
「終わった……」
サナージュは少女を見下ろいた。顔は幼い。サナージュと何も変わらない子供だった。それでもサナージュの心は何も揺れなかった。怒りが全てを塗り潰していた。
「まだ村を見よう」
サナージュは頷き、再び歩き出す。広場へ向かうと、多くの村人が倒れていた。その中に見慣れた服があった。
「……父さん」
駆け寄る。
冷たかった。
「母さん……」
隣に黒くごげた二人がいた。二人が身につけているペンダントでなんとかわかった、だが。二人とももう息をしていなかった。
「嫌だ……」
力が抜ける。膝をついた。
「嫌だよ……」
涙が止まらない。叫びたくても声にならない。
「どうしてだよ……」
何度問い掛けても返事はない。炎だけが燃え続けていた。
「サナージュ、さっきの子が村を焼いたのかな」
「いや違う、違う……」
「サナージュなんであの子じゃないと思ったの」
サナージュは答えなかった。
「絶対に殺してやる、お前もお前たちも、村を焼いたやつ、全員殺してやる」
その誓いだけがサナージュの生きる理由になった。
ささは思った、サナージュは相手を殺すと言う生きる理由がないともう生きてられないと。
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