表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
176/300

「光の球」

森を歩き始めて数日が経っていた。木々の隙間から差し込む日差しは暖かいはずなのに、どこか冷たく感じる。あの日初めて人を殺した感触は、まだ手から消えていなかった。血の匂いも、叫び声も、目を閉じれば鮮明によみがえる。それでも立ち止まることはできない。もう後戻りはできないのだから。

「元気ないね」

隣を歩く少女が横目でこちらを見る。

「普通、人を殺した次の日から元気いっぱいにはなれないだろ」

「そういうものかな」

「そういうものだよ」

少女は少しだけ笑った。

「でも、生き残るには慣れなきゃ」

「慣れたくはない」

「優しいね」

「違う。ただ怖いだけだ」

風が木々を揺らした。葉擦れの音だけが森に響く。

その静寂を切り裂くように、突然空気が震えた。

「伏せて!」

声と同時に白く輝く球体が一直線に飛んでくる。

ドクン。

心臓が大きく脈打つ。

カンッ!!

光の球は目の前で弾かれ、後方の巨木を粉々に吹き飛ばした。

「また能力が……」

無意識だった。危険を感じた瞬間、自動で無敵が発動していた。

「まだいる!」

二発、三発と光の球が飛んでくる。その全てが身体に触れる寸前で弾かれ、森のあちこちで爆発を起こした。

煙の向こうに、小さな影が立っていた。

長い髪を揺らす少女だった。

年齢は自分より少し上くらいだろうか。

その表情は冷たく、まるで感情が見えない。

「……外した」

少女は小さく呟き、再び掌に光を集め始めた。

「待て!」

叫ぶより早く光が放たれる。

また弾かれる。

少女の目がわずかに見開かれた。

「全部……弾く?」

「どういう能力なの」

「知らないよ!」

「知らない?」

少女は首を傾げる。

「能力を知らずに戦ってるの?」

「昨日手に入れたばっかなんだよ!」

「そう」

興味を失ったように呟く。

「なら死んで」

再び無数の光が放たれる。

森全体が昼間のように明るくなった。

爆発。

衝撃。

木々が倒れ、大地が抉れる。

それでも一発も身体には届かない。

「化け物……」

少女が初めて感情を見せた。

「違う!」

思わず叫び返す。

「俺だって好きでこんな能力になったわけじゃない!」

少女は答えない。

ただ光を集め続ける。

「もうやめろ!」

「やめない」

「なんでだ!」

「殺される前に殺す。それだけ」

その言葉には迷いがなかった。

この世界ではそれが当たり前なのだ。

「なら!」

隣の少女が一気に地面を蹴った。

一瞬で距離を詰める。

「はっ!」

鋭い蹴り。

光の少女は後ろへ飛び退き、直撃を避ける。

「速い」

「あなたもね」

二人が森の中で激しく動き回る。

木を蹴り、枝を飛び移り、互いの攻撃をかわす。

その隙に自分も走り出した。

「止まれ!」

光の少女はこちらを見る。

その一瞬だった。

ガサッ。

茂みの奥から炎が飛んできた。

「えっ」

轟音と共に木々が燃え上がる。

「まだ敵が!?」

「違う」

光の少女が初めて焦った表情を見せた。

「こいつらは……」

炎は次々と森へ広がっていく。

乾いた葉が一瞬で燃え、大木へと火が移る。

黒煙が空へ立ち上る。

「まずい!」

嫌な予感がした。

風向き。

煙。

炎。

全部、自分の村の方向だった。

「村……」

足が自然と動いていた。

全力で走る。

後ろから呼び止める声も聞こえない。

ただ走る。

嫌な予感だけが胸を締め付けていた。

森を抜けた瞬間、目の前の景色を見て足が止まる。

村全体が炎に包まれていた。

家が燃え、人々の悲鳴が響き、黒煙が空を覆っている。

「あ……」

声にならない。

膝から力が抜ける。

昨日まで笑っていた人たちが倒れている。

燃えている。

動かない。

「うそだ……」

震える声しか出なかった。

「誰か……誰か……」

返事はない。

炎が燃え盛る音だけが響いていた。

面白ければブックマーク評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ