「選ばれた者」
森の中は静かだった。だがその静けさが逆に不気味だった。サナージュはささの顔を見る。
「運命って何だよ」
「そのままの意味」
「意味わかんねぇよ」
ささはため息をついた。
「じゃあ質問。さっき隕石に触った?」
「触った」
「その後変な痛みがあった?」
「死ぬかと思った」
「なら確定だね」
サナージュは眉をひそめた。
「だから何が」
ささは少しだけ真面目な顔になった。
「あなたはバトルロワイヤルの参加者になった」
「……は?」
「殺し合い」
「……は?」
「最後の一人になるまで続く」
「……は?」
サナージュは三回聞き返した。
理解できなかった。
いや。
理解したくなかった。
「いやいやいや待て待て待て」
「待たない」
「何でそんなことになるんだよ!」
「隕石」
「は?」
「正確には能力の結晶」
サナージュは頭を抱えた。
さっぱりわからない。
ささは慣れた様子で話を続ける。
「世界には時々あの石が降ってくる。触った人は特殊な能力を得る」
「能力?」
「うん」
「じゃあ俺も?」
「そう」
「へぇ」
サナージュは少しだけ嬉しくなった。
だが次の言葉で吹き飛ぶ。
「代わりに殺し合いに参加」
「嫌だ」
即答だった。
ささは笑った。
「みんなそう言う」
「本当に嫌だ」
「でも始まる」
「断る」
「無理」
「なんでだよ」
「もう狙われてるから」
その瞬間だった。
ヒュン!!
再び何かが飛んできた。
回転する矢。
サナージュの首を狙っている。
カキィン!!
また弾かれた。
矢は木に突き刺さる。
サナージュは青ざめた。
「うわああああ!?」
「だから言った」
ささは平然としていた。
「ほらね」
「ほらねじゃねぇ!!」
森の奥から男が現れた。
十五歳くらい。
弓を持っている。
冷たい目をしていた。
「二回も防ぐとはな」
サナージュは思わず後ずさる。
男は矢をつがえた。
「能力持ちか」
「いや違う違う違う!」
「関係ない」
男は矢を放つ。
ヒュン!!
三本。
四本。
五本。
全てが回転しながら飛んでくる。
サナージュは目を閉じた。
だが。
カキン。
カキィン。
カンッ。
全部弾かれた。
見えない壁があるみたいに。
男が目を見開く。
「何だその能力」
「俺が聞きたい!」
サナージュは叫んだ。
ささが懐から奇妙な道具を取り出す。
片眼鏡のような物だった。
それをサナージュに向ける。
「なるほど」
「何が」
「見えた」
「だから何が」
ささは信じられないものを見る顔になった。
「無敵」
「は?」
「あなたの能力」
サナージュは固まった。
男も固まった。
数秒沈黙が流れる。
そして男が叫んだ。
「強能力じゃねぇか!!」
「知らねぇよ!!」
ささは首を振った。
「いや、強いけど欠点もある」
「欠点?」
「三秒」
「三秒?」
「三秒だけ無敵」
サナージュは微妙な顔になった。
「短くね?」
「かなり短い」
「弱くね?」
「でもその三秒間は絶対」
男が再び矢を構える。
「チッ」
ささが前に出た。
「面倒だな」
男が矢を放つ。
だがその瞬間。
ささの姿が消えた。
「なっ」
次の瞬間には男の懐にいた。
ドゴッ!!
膝蹴りが顎に入る。
男の体が浮く。
「ぐぁっ!!」
さらに蹴り。
さらに拳。
男は地面に叩きつけられた。
サナージュは呆然と見ていた。
「強っ」
「普通だよ」
「普通じゃねぇよ」
ささは男を見下ろした。
男はふらふらと立ち上がる。
その目には殺意があった。
「次は殺す」
そう言って森の奥へ消えていった。
静寂が戻る。
サナージュはへたり込んだ。
「何なんだよ今日」
ささは片眼鏡をしまう。
「今日からが本番だよ」
「嫌だ」
「残念」
「帰りたい」
「帰れない」
サナージュは空を見上げた。
数時間前まで平和だった。
飯を食って寝るだけの日常だった。
それが。
隕石一つで終わった。
ささはサナージュへ手を差し出す。
「立ちな」
サナージュはその手を見る。
「どこ行くんだよ」
ささは笑った。
「生き残る方法を教えてあげる」
サナージュは嫌そうな顔をした。
だが他に選択肢はなかった。
遠くの森の奥ではまた誰かの悲鳴が聞こえていた。
バトルロワイヤルはすでに始まっていた。
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