「隕石」
少年は笑っていた。
理由はない。
ただ空を見て、雲を眺めて、風を感じていた。
この村は平和だった。
働かなくても誰かが飯をくれる。
困ったら誰かが助けてくれる。
少年はそんな暮らしを当たり前だと思っていた。
「はぁ……今日も暇だなぁ」
草の上に寝転びながら少年は欠伸をする。
その少年の名前はサナージュ。
十歳。
女の子と間違えられるほど整った顔立ちをしていた。
村の子供達からはよく、
「お姉ちゃん!」
と呼ばれる。
そのたびに怒るが、最近は面倒なので訂正もしなくなった。
「飯でも食うか」
家に戻ろうと立ち上がった時だった。
空が光った。
最初は太陽の反射かと思った。
だが違う。
光はどんどん大きくなる。
燃えている。
落ちてきている。
空から。
真っ直ぐ。
サナージュの方へ。
「……え?」
轟音。
爆発。
地面が揺れる。
森の方角で土煙が上がった。
鳥達が一斉に飛び立つ。
村人達が騒ぎ始めた。
「隕石だ!」
「森に落ちたぞ!」
「近づくな!」
大人達の声が聞こえる。
だがサナージュは好奇心の方が勝った。
「隕石かぁ……」
走り出していた。
怒られるとか危険とか。
そんなことはどうでもよかった。
ただ見てみたかった。
森の奥。
焦げた木々。
抉れた地面。
その中心にそれはあった。
黒い石。
人の頭ほどの大きさ。
表面には青白い光が流れている。
まるで生きているみたいだった。
「なんだこれ……」
サナージュは近づく。
誰もいない。
不気味なくらい静かだった。
「試しに箸で突きたいな」
もちろん箸なんて持っていない。
だから指でつつく。
ツン。
何も起きない。
「意外と普通?」
もう少し近づく。
じっと見る。
綺麗だった。
宝石みたいに。
「触っちゃおうかな」
少しだけ迷う。
でも好奇心が勝った。
「えい」
手のひらで触れる。
次の瞬間だった。
ドクン。
心臓が大きく跳ねた。
全身に電流が走る。
骨。
筋肉。
血管。
神経。
全てを焼かれるような激痛。
「ああああああああああああああああああ!!」
地面を転がる。
痛い。
痛い。
痛い。
息ができない。
叫ぶことしかできない。
そして突然。
痛みが消えた。
「はぁ……はぁ……」
汗だくになりながら立ち上がる。
体は震えていた。
何だったんだ今のは。
そう思った時。
ヒュン。
何かが飛んできた。
回転している。
矢だ。
異常な速度。
サナージュの顔面へ真っ直ぐ。
「えっ」
反応できない。
避けられない。
死ぬ。
そう思った瞬間。
カキィン!!
金属が弾かれるような音が響いた。
矢が吹き飛ぶ。
森の木へ突き刺さる。
サナージュは呆然とした。
「……は?」
自分は何もしていない。
なのに矢が弾かれた。
理解できない。
その時だった。
誰かが腕を掴む。
「こっち!」
女の声。
サナージュは引っ張られる。
「え!?」
「早く!」
森の奥へ。
木々の間へ。
二人は駆け込んだ。
数分後。
大木の陰に身を隠す。
そこでようやく止まった。
サナージュは息を切らしながら隣を見る。
女だった。
長い黒髪。
鋭い目。
年齢は十代後半くらい。
どこか危険な雰囲気を纏っている。
「……誰?」
女は小さく笑った。
「名乗るほどの者じゃない」
少し間を置く。
「と言ったら嘘になるね」
女は胸を張った。
「私はささ」
サナージュは眉をひそめる。
「いやまず説明してくれよ」
「何を?」
「全部だよ!!」
ささは肩をすくめた。
「察しが悪いね」
そして静かに言った。
「サナージュ、あなたは選ばれた」
「は?」
「運命にね」
サナージュはますます意味が分からなくなった。
だがその瞬間。
ささの表情だけは冗談ではなかった。
森の奥から。
誰かの足音が聞こえていた。
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