「最後の一人」
どれほどの時間が流れたのか。
ゼルクロノスには分からなかった。
何十億時間。
何百億時間。
あるいはそれ以上。
時間という概念すら曖昧になっていた。
だが一つだけ確かなことがある。
ゼルクロノスは逃げなかった。
一人一人と向き合った。
怒鳴られた。
殴られた。
責められた。
泣かれた。
恨まれた。
許されなかった。
それでも。
逃げなかった。
そして今。
白い世界には一人だけ残っていた。
ゼルクロノスは静かに立っている。
向かい側にも一人。
最後のゼルクロノスだった。
その姿を見た瞬間。
ゼルクロノスは目を見開いた。
「お前は」
最後のゼルクロノスは笑った。
「よう」
その顔は見覚えがあった。
当然だった。
自分だからだ。
今まで会ってきたゼルクロノス達とは違う。
派閥もない。
肩書きもない。
ただのゼルクロノス。
誰よりも最初に存在した。
誰よりも原点に近い存在だった。
「お前が最後か」
ゼルクロノスが言う。
相手は頷く。
「そうだ」
静寂。
今までなら相手から責められていた。
怒鳴られていた。
だが最後のゼルクロノスは違った。
ただ立っている。
穏やかだった。
「怒らないのか」
ゼルクロノスが聞く。
相手は笑う。
「今さら怒る必要あるか?」
ゼルクロノスは言葉に詰まる。
「みんなから散々言われただろ」
「……ああ」
「殴られただろ」
「……ああ」
「泣いただろ」
「……ああ」
最後のゼルクロノスは頷いた。
「ならもう十分だ」
ゼルクロノスは黙る。
最後のゼルクロノスが歩いてくる。
ゆっくり。
静かに。
そして目の前で止まった。
「聞きたいことがある」
「なんだ」
「今のお前は何者だ」
ゼルクロノスは少し考えた。
昔なら即答していた。
終焉超時空魔皇帝ゼルクロノス。
そう叫んでいた。
だが今は違う。
長い時間をかけた。
たくさんの声を聞いた。
たくさんの人生を見た。
たくさんの後悔を知った。
だから。
ゼルクロノスはゆっくり答えた。
「俺はゼルクロノスだ」
相手は黙って聞いている。
「終焉超時空魔皇帝ゼルクロノス」
「全宇宙の特異点」
「ファイナルエンダー」
「全部俺だ」
「だけど」
ゼルクロノスは拳を握る。
「俺だけじゃない」
静寂。
「俺の中にはお前達がいる」
「何億ものゼルクロノスがいる」
「俺はそれを忘れない」
最後のゼルクロノスは少し笑った。
「そうか」
それだけだった。
だが。
どこか安心したような顔だった。
「なら大丈夫だ」
ゼルクロノスは目を見開く。
「大丈夫?」
「お前はもう自分を見失わない」
最後のゼルクロノスは言う。
「長かったな」
「ああ」
「本当に長かった」
「ああ」
二人は少し笑った。
その時だった。
世界が光り始める。
白い空間全体が輝き始める。
最後のゼルクロノスの身体も光になっていく。
「時間か」
ゼルクロノスが言う。
相手は頷く。
「終わりだ」
「終わりか」
「終わりだ」
最後のゼルクロノスは右手を差し出した。
ゼルクロノスは少し驚く。
だが。
ゆっくりとその手を握った。
握手だった。
長い長い旅の終わりだった。
「じゃあな」
最後のゼルクロノスが言う。
「またな」
ゼルクロノスが答える。
光が強くなる。
そして。
最後のゼルクロノスは消えた。
完全に。
静寂。
誰もいない。
白い世界にはゼルクロノスだけが残っていた。
その瞬間。
どこか遠くから声が聞こえた。
聞き慣れた声。
「おい」
ゼルクロノスは顔を上げる。
「終わったか」
レグルスだった。
ゼルクロノスは少し笑う。
「終わった」
「そうか」
「待たせたな」
「本当にな」
レグルスは呆れたように笑った。
そして。
白い世界が崩れ始める。
自我を繋げる世界。
その役目を終えたのだった。
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