「ゼルクルスの拳」
ゼルクルスはゼルクロノスを見下ろしていた。
静かな空間だった。
ゼクロスが消えたあと。
残されたのは二人だけ。
ゼルクロノスは俯いていた。
ゼクロスとの会話が頭から離れない。
謝った。
泣いた。
認めた。
それでも。
消えた事実は変わらない。
ゼルクルスが口を開く。
「よぉ」
ゼルクロノスは顔を上げる。
「ゼルクルス」
「随分情けない顔になったな」
「うるさい」
ゼルクルスは鼻で笑う。
「その顔がお前には似合ってる」
ゼルクロノスは少し腹が立った。
だが反論できなかった。
ゼルクルスはゆっくり近付いてくる。
一歩。
また一歩。
そして目の前で止まった。
「なぁゼルクロノス」
「なんだ」
「お前さ」
ゼルクルスは真っ直ぐ見つめる。
「何億人吸収したんだ?」
ゼルクロノスは答えられない。
数など覚えていない。
あまりにも多すぎた。
「覚えてない」
「だろうな」
ゼルクルスはそう言った。
そして。
ゴンッ!!
拳が飛んだ。
ゼルクロノスの顔面に直撃する。
ゼルクロノスは吹き飛んだ。
地面を転がる。
「がっ!?」
何が起きたのか分からなかった。
ゼルクルスは歩いてくる。
怒っていた。
今までで一番。
「お前」
低い声だった。
「何億人の人生を奪ったと思ってる」
ゼルクロノスは起き上がる。
「俺は」
「言い訳するな」
ゼルクルスが言う。
「力が欲しかった?」
「知るか」
「苦しかった?」
「知るか」
「精神がおかしかった?」
「知るか」
ゼルクロノスは黙る。
ゼルクルスはさらに言う。
「俺達はお前のために生まれたわけじゃねぇ」
その言葉は重かった。
ゼクロスも言っていた。
同じ言葉だった。
「分かってる」
ゼルクロノスは答える。
「本当にか?」
「分かってる」
「本当にか?」
「分かってるって言ってるだろ!!」
ゼルクロノスが叫ぶ。
その瞬間。
ゴォン!!
二発目の拳が飛んだ。
ゼルクロノスは再び吹き飛ばされた。
今度は立てない。
ゼルクルスは近付く。
「なら立て」
「……」
「泣いて終わるな」
「……」
「謝って終わるな」
「……」
「お前は何者だ」
ゼルクロノスの身体が震えた。
あの日。
吸収される前にも聞かれた。
お前は何者だ。
ゼルクロノスは拳を握る。
「俺は」
声が震える。
「俺は」
ゼルクルスは待っていた。
ゼルクロノスは立ち上がる。
傷だらけになりながら。
そして叫んだ。
「終焉超時空魔皇帝ゼルクロノスだ!!」
空間が震えた。
ゼルクルスは少し笑った。
「そうだ」
それだけだった。
怒鳴りもしない。
殴りもしない。
ただ少し笑った。
「それでいい」
ゼルクロノスは息を切らす。
ゼルクルスは背を向けた。
「ゼルクロノス」
「なんだ」
「俺達を吸収したことは消えない」
「……ああ」
「だから忘れるな」
「……ああ」
「そして逃げるな」
ゼルクロノスは頷いた。
ゼルクルスの身体が光り始める。
時間だった。
「もう行くのか」
「次がいるからな」
ゼルクルスは笑う。
「お前にはまだ会わなきゃいけない奴が山ほどいる」
光が強くなる。
「頑張れよ」
そしてゼルクルスは消えた。
静寂。
ゼルクロノスは一人残された。
だが次の瞬間。
また誰かが現れる。
別のゼルクロノス。
また別のゼルクロノス。
さらに別のゼルクロノス。
安定派。
統一派。
個々派。
敵だった者。
味方だった者。
話したこともない者。
無数のゼルクロノス達だった。
ゼルクロノスはその後、一人一人と向き合うことになる。
怒鳴られた。
殴られた。
罵倒された。
許されなかった者もいた。
少しだけ認めてくれた者もいた。
何十億時間かかったのか。
何百億時間かかったのか。
もう誰にも分からない。
だがゼルクロノスは逃げなかった。
全てのゼルクロノスと話し続けた。
そしていつしか。
最後の一人との対話が終わろうとしていた。
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