「最初の会話」
ゼクロスは立っていた。
白い世界の中で。
静かに。
ただ静かに。
ゼルクロノスを見つめていた。
その視線だけで胸が苦しくなる。
ゼルクロノスは何も言えなかった。
言葉が出てこない。
戦争の記憶が蘇る。
安定派で話したこと。
違和感を共有したこと。
幹部を追いかけたこと。
そして最後。
自分が全員を吸収した瞬間。
全部思い出していた。
ゼクロスが口を開く。
「久しぶりだな」
その声は静かだった。
怒鳴り声ではない。
だが逆にそれが怖かった。
ゼルクロノスは視線を逸らす。
「そうだな」
ゼクロスは笑わない。
昔なら笑っていた。
軽口を叩いていた。
だが今は違う。
「聞きたいことがある」
ゼクロスが言う。
ゼルクロノスは黙ったまま頷いた。
「なんでだ」
短い言葉だった。
だが重かった。
ゼルクロノスは答えられない。
「なんで俺たちを吸収した」
沈黙。
「なんでだ」
ゼクロスがもう一度言う。
「俺たちは仲間だった」
「敵じゃなかった」
「少なくとも俺はそう思ってた」
ゼルクロノスは拳を握る。
「違う」
小さく呟く。
「何が違う」
「お前は悪くない」
「そんな話してねぇよ」
ゼクロスの声が少し強くなる。
「俺は理由を聞いてる」
ゼルクロノスは俯く。
答えたくなかった。
だが逃げられない。
レグルスも言っていた。
向き合えと。
逃げるなと。
ゼルクロノスは震える声で言った。
「力が欲しかった」
ゼクロスは動かない。
ただ聞いている。
「俺は」
「力が欲しかった」
「もっと強くなりたかった」
「負けたくなかった」
「誰にも」
「何にも」
「だから」
言葉が詰まる。
ゼクロスの目が揺れる。
「だから吸収したのか」
ゼルクロノスは頷いた。
それ以上言えなかった。
ゼクロスはしばらく黙っていた。
怒鳴られると思った。
殴られると思った。
だが違った。
ゼクロスは悲しそうに笑った。
「そうか」
その一言だった。
それが一番辛かった。
ゼルクロノスは顔を上げられない。
ゼクロスが続ける。
「俺たちの人生って」
「その程度だったんだな」
ゼルクロノスの心臓が止まりそうになる。
「違う」
「違わない」
「違うんだ」
「何が違う」
ゼルクロノスは叫んだ。
「俺だって苦しかった!!」
静寂。
ゼクロスが目を見開く。
ゼルクロノスは止まらなかった。
「毎日戦ってた!!」
「死ぬかもしれなかった!!」
「俺は強くならなきゃいけなかった!!」
「俺は!!」
呼吸が乱れる。
「俺は怖かったんだよ」
初めて言葉にした。
誰にも言ったことがない本音だった。
「怖かった?」
ゼクロスが聞く。
ゼルクロノスは頷く。
「弱い自分が」
「何も守れない自分が」
「何もできない自分が」
「怖かった」
ゼクロスは静かに聞いていた。
「だから力を求めた」
「そうだ」
「だから俺たちを吸収した」
「そうだ」
ゼクロノスの目から涙が落ちる。
「最低だよな」
ゼクロスは何も言わない。
「俺は最低だ」
「お前らを仲間だと思ってた」
「なのに吸収した」
「全部俺のせいだ」
声が震える。
「全部」
「全部だ」
涙が止まらない。
「ごめん」
「ごめん」
「ごめん」
何度も謝る。
謝ることしかできなかった。
ゼクロスは黙っていた。
長い沈黙。
やがて。
ゼクロスがため息を吐いた。
「お前」
ゼルクロノスは顔を上げる。
「本当に馬鹿だな」
意外な言葉だった。
ゼルクロノスは呆然とする。
ゼクロスは苦笑した。
「力が欲しかったから吸収した」
「そんな理由で俺たちは消えた」
「正直ふざけんなって思う」
ゼルクロノスは何も言えない。
「でもな」
ゼクロスは少しだけ優しい顔になる。
「今のお前は嘘ついてない」
ゼルクロノスの目が揺れる。
「ずっと聞きたかった」
「なんでだったのか」
「理由が知りたかった」
ゼルクロノスは震えていた。
ゼクロスは続ける。
「許さない」
その言葉に胸が締め付けられる。
「俺はお前を許さない」
「そうだよな」
「だけど」
ゼクロスは拳を緩めた。
「話は聞いた」
ゼルクロノスは息を呑む。
「だから次へ進め」
「え」
「俺だけじゃない」
ゼクロスは後ろを見る。
白い世界の向こう。
無数のゼルクロノスたち。
果てしない数。
何億という存在。
全員がこちらを見ている。
「まだ終わってない」
ゼクロスが言う。
「お前は全員と向き合うんだ」
ゼルクロノスは絶望した。
その数を見て。
何億。
何兆。
終わりが見えない。
「無理だろ」
「無理じゃない」
「無理だ」
「やれ」
ゼクロスは笑う。
昔と同じ笑い方だった。
「レグルスも言ってただろ」
ゼルクロノスは思わず苦笑した。
「無茶苦茶だな」
「今さらだろ」
二人は少しだけ笑った。
ほんの一瞬だった。
だが確かに。
昔みたいだった。
その時。
ゼクロスの身体が光り始める。
ゼルクロノスが目を見開く。
「おい」
「時間だ」
「待て」
ゼクロスは首を振る。
「俺の番は終わりだ」
「終わり?」
「次の奴が来る」
ゼルクロノスは慌てる。
「待てよ」
ゼクロスは笑った。
「なんだ」
ゼルクロノスは言葉に詰まる。
言いたいことが多すぎた。
だが最後に出たのは。
「ごめん」
だった。
ゼクロスは少しだけ目を細める。
「知ってる」
光が強くなる。
身体が消えていく。
「ゼクロス!!」
ゼルクロノスが叫ぶ。
ゼクロスは最後に一言だけ残した。
「立てよ」
その言葉は。
あの日のゼルクルスと同じだった。
そして。
ゼクロスは光の中へ消えた。
白い世界に静寂が戻る。
ゼルクロノスはその場に立ち尽くしていた。
胸が痛い。
苦しい。
だが。
少しだけ軽かった。
ほんの少しだけ。
その時だった。
ドン。
遠くから足音が聞こえる。
一歩。
また一歩。
重い足音。
ゼルクロノスは顔を上げた。
誰かが近付いてくる。
その姿を見た瞬間。
ゼルクロノスの表情が変わる。
「お前」
そこに立っていたのは。
かつて自分を戦場で吹き飛ばした男。
統一派のリーダー。
ゼルクルスだった。
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