「自我を繋げる世界」
「あああああああああああああああああああああ!!」
ゼルクロノスの叫びが暗黒空間を震わせる。無数のブラックホールが暴れ狂い、周囲の空間を引き裂いていく。レグルスは眉をひそめながらその様子を見ていた。
「チッ」
ゼルクロノスは頭を抱えたまま膝をつく。
「俺は」
「私は」
「僕は」
「ワシは」
「違う」
「違う」
「違う!!」
そのたびにエネルギーが暴発する。
レグルスは一歩前へ出た。
「もう見てられねぇな」
ゼルクロノスは苦しそうに顔を上げる。
「助けてくれ」
その声は弱々しかった。
レグルスは少し驚く。
今のゼルクロノスからそんな言葉が出るとは思わなかった。
だが次の瞬間にはまた人格が揺らぐ。
「俺は最強だ」
「違う」
「私は終焉だ」
「違う」
「僕は」
「誰だ」
レグルスはため息を吐いた。
そしてゼルクロノスの額に手を当てる。
「おい」
「は?」
「少し寝ろ」
「何言って」
その瞬間。
ドゴォォォォン。
ゼルクロノスの視界が真っ白になった。
「なっ」
世界が消える。
暗黒空間も。
ブラックホールも。
レグルスも。
何もかも。
気付けばゼルクロノスは見知らぬ場所に立っていた。
空も地面も存在しない。
ただ白い。
どこまでも白い。
静かな世界。
「なんだここ」
ゼルクロノスは周囲を見回す。
誰もいない。
何もない。
だが。
どこか懐かしい感覚があった。
その時。
声が聞こえた。
「聞こえるか」
ゼルクロノスは振り向く。
誰もいない。
「こっちだ」
また声。
今度は前。
「誰だ」
「レグルスだ」
声だけが響く。
姿は見えない。
「ここはどこだ」
「お前の中だ」
ゼルクロノスは眉をひそめた。
意味が分からない。
「お前は何億ものゼルクロノスを吸収した」
レグルスの声が続く。
「その結果、自我が壊れた」
ゼルクロノスは黙る。
反論できなかった。
「だから今から繋げる」
「何を」
「お前自身をだ」
静寂。
そして。
遠くに人影が現れた。
一人。
また一人。
さらに一人。
無数ではない。
だが確実に増えていく。
ゼルクロノスは息を飲んだ。
全員。
自分だった。
赤と金の装甲。
同じ顔。
同じ姿。
だが目だけが違う。
それぞれ違う人生を歩いてきた証のように。
「おい」
ゼルクロノスは後ずさる。
「まさか」
レグルスの声が響く。
「そうだ」
「お前が吸収したゼルクロノスたちだ」
ゼルクロノスの心臓が強く鳴った。
忘れられるはずがない。
戦場で起きたことを。
力に酔ったことを。
そして。
全員を吸収したことを。
「ふざけんな」
ゼルクロノスは拳を握る。
「なんで今さら」
「知らねぇよ」
レグルスが答える。
「だが逃げるな」
「は?」
「お前はずっと逃げてきた」
ゼルクロノスは黙った。
「力に逃げた」
「破壊に逃げた」
「暴走に逃げた」
「そして今も逃げようとしてる」
ゼルクロノスの顔が歪む。
図星だった。
「だから話せ」
レグルスの声が響く。
「一人ずつ」
「全員と」
「お前が吸収した人生全部と向き合え」
ゼルクロノスは思わず笑った。
乾いた笑いだった。
「無理だろ」
「何億人いるんだぞ」
「知るか」
レグルスは即答した。
「やれ」
「無茶苦茶だろ」
「やれ」
沈黙。
ゼルクロノスは空を見上げる。
空はない。
だが見上げた。
何も言えなかった。
やらなければならないと分かっていたからだ。
その時だった。
一人のゼルクロノスが前へ出る。
他の者たちは止まったまま。
その一人だけが歩いてくる。
ゼルクロノスはその顔を見た瞬間。
目を見開いた。
「ゼクロス」
その名が自然と口から出た。
ゼクロスは立ち止まる。
そして。
怒りと悲しみが混ざった目でゼルクロノスを見つめた。
長い沈黙。
どちらも動かない。
やがて。
ゼクロスが口を開いた。
「ゼルクロノス」
その声を聞いた瞬間。
ゼルクロノスの胸が強く痛んだ。
そして。
自我を繋げるための最初の対話が始まろうとしていた。
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