「崩壊する地底都市」
地底都市全体が揺れていた。
天井から砂が落ちる。
壁に亀裂が走る。
遠くで爆発音が響く。
警報はまだ鳴り続けていたが、もはや誰もそれを聞いていなかった。
悲鳴。
怒号。
泣き声。
地底都市は今、崩壊の真っただ中にあった。
ルクスは通路を走る。
後ろでは無数のレギオンが迫っていた。
だが振り返らない。
今優先するべきは戦うことではない。
生き残っている人々を逃がすことだった。
広場へ飛び込む。
そこには数百人の避難民が集まっていた。
誰もが怯えている。
誰もが未来を失いかけている。
そしてルクスには聞こえていた。
夢が。
「農場を作りたい」
「地上を見たい」
「研究者になりたい」
「歌を歌いたい」
「家族と暮らしたい」
小さな夢。
くだらない夢。
だけど誰かにとっては世界そのものだった。
その瞬間。
轟音が響く。
広場の入口が吹き飛んだ。
現れたのは数十体のレギオンだった。
悲鳴が上がる。
逃げ惑う人々。
押し合う群衆。
ルクスは前へ出た。
「逃げろ!」
スパイラルを発動する。
回転が唸る。
空気が震える。
突撃してきたレギオンをまとめて巻き込み、壁へ叩きつける。
装甲が砕ける。
しかし次が来る。
その次も。
終わらない。
まるで波だ。
一つ潰しても次が来る。
次が来てもまた次が来る。
ルクスは歯を食いしばった。
限界が近い。
それは分かっていた。
だが退けない。
後ろには夢がある。
守りたいものがある。
その時だった。
瓦礫の陰から小さな少女が現れた。
まだ幼い。
七歳ほどだろうか。
少女は震えながらルクスを見る。
「お兄ちゃん」
ルクスは振り返る。
少女は泣いていた。
「わたしね」
小さな声だった。
「お花屋さんになりたいの」
ルクスは言葉を失う。
少女は続けた。
「地上でいっぱいお花を育てるの」
その夢が流れ込んでくる。
暖かい日差し。
風。
色とりどりの花。
笑っている家族。
ただそれだけだった。
ただそれだけなのに。
どうしてこんなにも綺麗なんだろうと思った。
その瞬間。
レギオンが少女へ向かう。
ルクスの身体が勝手に動いた。
スパイラル。
回転の盾が展開される。
激突。
凄まじい衝撃。
床が砕ける。
それでも盾は崩れない。
少女も無事だった。
ルクスは拳を握る。
「叶えろ」
少女が目を見開く。
「絶対に叶えろ」
それは少女へ向けた言葉だった。
同時に自分へ向けた言葉でもあった。
夢は奪わせない。
絶対に。
その時だった。
地底都市全体を揺らす轟音が響く。
誰もが顔を上げた。
遠く。
都市中央部。
巨大な支柱が崩れていた。
地底都市を支えていた柱。
数百年存在していた巨大構造物。
それが今、崩れ始めている。
絶望が広がる。
支柱が崩れれば終わる。
都市そのものが潰れる。
レギオンたちはそれを理解しているのか、さらに侵攻速度を上げていた。
そして。
群れの奥から現れる。
あの巨大な存在。
黒い装甲。
赤い瞳。
指揮官。
周囲のレギオンが一斉に膝をつく。
まるで王を迎えるように。
指揮官はルクスを見た。
「対象ルクス」
低い声が響く。
「危険度更新」
赤い瞳が輝く。
「最優先排除対象」
その瞬間。
地底都市中のレギオンたちが一斉にルクスを向いた。
数百。
いや数千。
全ての敵意が集中する。
避難民たちが息を呑む。
ルクスは静かに前へ出た。
怖くないわけじゃない。
死にたくない。
まだ夢だってある。
だけど。
それでも。
守りたいものがある。
だから立つ。
それだけだった。
ルクスはスパイラルを発動する。
回転が唸る。
今までで最も強く。
そして静かに言った。
「来いよ」
その言葉と同時に。
数千のレギオンが一斉に動き出した
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