「吸い上げる」
ゼルクロノスは立っていた。
誰もいない暗黒空間。
音もない。
光もない。
時間さえ曖昧な世界だった。
「俺は」
小さく呟く。
「誰なんだ」
返事はない。
だが頭の中では声が響いていた。
何億もの声。
何億もの記憶。
何億もの人生。
ゼクロス。
ゼルクルス。
名も知らない無数のゼルクロノスたち。
笑った記憶。
怒った記憶。
戦った記憶。
死んだ記憶。
全てが混ざり続けていた。
「うるさい」
ゼルクロノスは頭を押さえる。
「やめろ」
止まらない。
「やめろぉぉぉぉ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ。
身体から膨大なエネルギーが噴き出した。
暗黒空間が歪む。
次元が軋む。
宇宙が震える。
そして。
ゼルクロノスの周囲に巨大なブラックホールが現れた。
一つではない。
二つでもない。
数百。
数千。
無数。
「消えろ」
ゼルクロノスは呟いた。
「全部」
ブラックホールが動き出す。
別次元の壁を突き破る。
宇宙へ。
宇宙へ。
さらに別宇宙へ。
轟音が響く。
惑星が飲み込まれる。
恒星が消える。
銀河が歪む。
ゼルクロノス自身も何をしているのか分かっていなかった。
ただ苦しかった。
頭の中の声を消したかった。
それだけだった。
だが。
力は止まらない。
ゼルクロノスは全宇宙の特異点。
ゼルクロノスコアを取り込んだ怪物。
宇宙から直接エネルギーを引き出せる存在だった。
ブラックホールがさらに巨大化する。
無数の宇宙からエネルギーが吸い上げられる。
光が消える。
星が消える。
命が消える。
「はぁ」
「はぁ」
ゼルクロノスは荒く息を吐く。
だが少しだけ楽になった。
頭の中の声が小さくなったからだ。
「静かだ」
そう呟いた。
その瞬間だった。
遠くの宇宙。
ラモンは異変を感じていた。
空が歪む。
大地が揺れる。
空間そのものが悲鳴を上げている。
「なんだこれ」
ラモンは空を見上げた。
黒い穴が現れている。
巨大なブラックホール。
しかも一つではない。
「まさか」
ラモンの顔色が変わる。
嫌な予感しかしなかった。
師匠しかいない。
こんなことができる存在は。
「ゼルクロノス師匠」
ラモンは拳を握った。
「何をしてるんですか」
その頃。
別次元。
ゼルクロノスは虚ろな目で宇宙を見ていた。
ブラックホールが星々を飲み込む。
エネルギーが身体へ流れ込む。
だが満たされない。
何も。
少しも。
「俺は」
また呟く。
「誰なんだ」
答えはなかった。
だから。
ゼルクロノスはさらに力を解放した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
無数の宇宙からエネルギーが吸い上げられる。
そして暴走はさらに加速していった。
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