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「暴走の始まり」


ゼルクロノスは暗黒空間に立っていた。

動かない。

呼吸すらしていないように見えた。

だが身体の奥では何かが暴れていた。

「俺は」

沈黙。

「私は」

沈黙。

「僕は」

沈黙。

「ワシは」

沈黙。

誰も答えない。

だが次の瞬間だった。

頭の中で声が響いた。

『俺はゼルクロノスだ』

知らない声だった。

だが知っている気もした。

『俺もゼルクロノスだ』

また別の声。

『俺も』

『俺もだ』

『俺もだ』

『俺もだ』

『俺もだ』

『俺もだ』

無数だった。

何億。

何兆。

数え切れない声。

ゼルクロノスは頭を押さえた。

「やめろ」

声は止まらない。

『俺は家族を守った』

『俺は世界を救った』

『俺は星を滅ぼした』

『俺は負けた』

『俺は勝った』

『俺は死んだ』

『俺は生きた』

全てゼルクロノスだった。

全て本物だった。

全て自分だった。

だからこそ区別がつかなかった。

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

ドォォォォォン!!

暗黒空間が砕けた。

衝撃波が次元を貫く。

近くの宇宙へ到達する。

ある宇宙では惑星が揺れた。

ある宇宙では海が逆流した。

ある宇宙では空間そのものに亀裂が走った。

だがゼルクロノスは気付いていない。

自分が何をしているのか。

理解していなかった。

「俺は誰なんだ!!」

その瞬間。

身体から黒いエネルギーが噴き出した。

周囲の空間が飲み込まれる。

そして。

ブラックホールが生まれた。

巨大だった。

恒星を何万個並べても足りないほど。

暗黒空間そのものを飲み込み始める。

だがブラックホールは消えない。

むしろ成長していた。

ゼルクロノスは無意識だった。

暴走していた。

「違う」

「違う」

「違う」

頭を抱える。

瞳から涙が流れていた。

何故泣いているのか。

自分でも分からない。

その時だった。

一つの記憶が浮かぶ。

ゼクロス。

『俺たちはお前のために生まれたわけじゃねぇんだよ!!』

ゼルクロノスの身体が震えた。

また別の記憶。

ゼルクルス。

『何億ものゼルクロノスの人生を吸収したなら立てよ』

さらに別の記憶。

被害者達。

『なぜ私達は殺された』

「うるさい」

ゼルクロノスは呟く。

「うるさい」

エネルギーが増大する。

「うるさいんだよぉぉぉぉぉ!!」

ドゴォォォォォォォォン!!

今度は宇宙規模だった。

衝撃波が次元を突き破る。

複数の宇宙が同時に揺れた。

星々が砕ける。

文明が崩壊する。

だがゼルクロノスは見ていない。

見えていない。

ただ苦しんでいた。

「助けてくれ」

小さく呟く。

誰にも聞こえない声だった。

全宇宙の特異点。

最強無敵の怪物。

終焉超時空魔皇帝。

それでも。

今のゼルクロノスはただ苦しんでいた。

その頃。

別宇宙。

レグルスは立ち止まった。

ピンク色の髪が揺れる。

周囲の空間が震えていた。

宇宙そのものが悲鳴を上げている。

レグルスは眉をひそめた。

「なんだこのエネルギー」

嫌な予感がした。

その時。

通信が入る。

ラモンだった。

レグルスはすぐに受信する。

「どうした」

聞こえてきたのは切羽詰まった声だった。

「レグルス!!」

「落ち着け」

「落ち着いてられませんよ!!」

ラモンの息は荒かった。

「師匠が消えたんです!!」

レグルスの表情が変わる。

「何?」

「自分が誰か分からなくなってました!!」

「一人称も滅茶苦茶で!!」

「そのまま別次元に消えたんです!!」

沈黙。

レグルスは空を見上げた。

黒いエネルギーが遠方の宇宙から溢れ出している。

嫌な予感ではない。

確信だった。

「チッ」

小さく舌打ちする。

「最悪だな」

ラモンの声が震える。

「どういうことですか」

レグルスは答えた。

「吸収した代償だ」

「代償?」

「あいつは全てのゼルクロノスを吸収した」

レグルスは拳を握る。

「力だけじゃない」

「記憶も人生も感情も全部だ」

ラモンは息を呑んだ。

レグルスは続ける。

「本来なら壊れてもおかしくなかった」

「だがあいつは耐えていた」

「今まではな」

ラモンの顔が青ざめる。

「じゃあ」

「ああ」

レグルスは言った。

「限界が来た」

その瞬間。

遠くの宇宙で巨大な爆発が起きた。

次元を超えて見えるほどの規模。

ラモンが叫ぶ。

「なんだ今の!?」

レグルスは目を細める。

「あいつだ」

「師匠が?」

「暴走が始まった」

レグルスは前へ出る。

周囲の空間が軋む。

「このまま放っておけば」

「どうなるんですか」

レグルスは短く答えた。

「全宇宙が終わる」

ラモンは言葉を失った。

だがレグルスの表情は真剣だった。

冗談ではない。

事実だった。

全宇宙の特異点となったゼルクロノス。

その存在が暴走すれば。

被害は一つの宇宙では済まない。

レグルスは空間へ手を伸ばす。

「待ってろよ」

誰に向けた言葉だったのか。

ゼルクロノスか。

それとも自分自身か。

次の瞬間。

ドォォォォォン!!

レグルスは次元を突き破った。

そして。

暴走するゼルクロノスを追うため。

暗黒空間へ向かった。

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