「最強と呼ばれた怪物」
戦場が静まり返っていた。
誰も動けなかった。
ゼルクロノスの身体から溢れ出るエネルギーがあまりにも異常だったからだ。
赤金の装甲の隙間から光が漏れている。
いや。
光ではない。
宇宙そのものだった。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
周囲の空間が歪む。
遠くの恒星が引き寄せられる。
次元の壁が軋む。
ゼルクロノスはゆっくりと顔を上げた。
「はぁ……」
息を吐く。
その一息だけで周囲の空間が震えた。
「これが……」
握り拳を見る。
「力」
今まで感じたことのない感覚だった。
身体の中に宇宙がある。
そう錯覚するほどだった。
戦場の反対側。
ゼルクルスが険しい顔で見ている。
「まさか本当に取り込みやがったのか」
誰かが言う。
「ありえない」
「ゼルクロノスコアだぞ」
「宇宙そのものだ」
「生きているだけでも奇跡だ」
だが。
ゼルクロノスは生きていた。
それどころか。
以前より遥かに強くなっている。
ゼルクロノスは周囲を見渡した。
無数のゼルクロノス。
何万。
何億。
果てしない数。
その全員が敵だった。
そして。
その全員が弱く見えた。
「……」
ゼルクロノスは少し黙る。
その感覚に自分でも戸惑っていた。
ついさっきまで。
圧倒されていたはずだった。
だが今は違う。
誰も自分を倒せる気がしなかった。
ゼルクルスが前へ出る。
「全員聞け」
声が響く。
戦場全体に。
「もう躊躇するな」
ゼルクルスの視線はゼルクロノスだけを見ていた。
「今ここで止める」
静寂。
そして。
「総攻撃だ」
瞬間。
戦場が爆発した。
無数のゼルクロノスたちが飛び出す。
安定派。
統一派。
個々派。
関係ない。
全員がゼルクロノスへ向かう。
空が埋まる。
宇宙が埋まる。
無数のエネルギー波。
無数の能力。
無数の必殺技。
全てがゼルクロノスへ殺到した。
だが。
ゼルクロノスは動かなかった。
ただ立っていた。
攻撃が迫る。
直撃。
轟音。
閃光。
衝撃波。
戦場が白く染まる。
数秒後。
煙が晴れる。
そこには。
ゼルクロノスが立っていた。
無傷で。
「終わりか?」
誰も言葉を返せない。
ゼルクロノス自身も驚いていた。
効いていない。
本当に。
何一つ。
「なんだよ」
ゼルクロノスは笑った。
「そんなもんか」
次の瞬間だった。
ドン。
ただ拳を振った。
それだけだった。
衝撃が発生する。
宇宙を横断する衝撃波。
数千のゼルクロノスが吹き飛ぶ。
さらに。
数万。
数十万。
戦場が崩壊する。
「なっ!?」
「馬鹿な!!」
「こんな力!!」
悲鳴が響く。
ゼルクロノスは止まらない。
一歩踏み出す。
その瞬間。
周囲の空間が砕けた。
近くにいたゼルクロノスたちが耐えられず吹き飛ぶ。
「強い」
ゼルクロノスは呟く。
「俺は」
また一歩。
また戦場が壊れる。
「強い」
その瞳には。
少しずつ狂気が混じり始めていた。
被害者たちの声。
安定派で受けた精神の歪み。
抑え込んでいたもの。
全てが力によって押し流されていく。
ゼルクルスは気付いた。
「まずい」
ゼルクロノスはもう戦っていない。
力に酔い始めている。
「止めろ!!」
ゼルクルスが叫ぶ。
そして自ら飛び出した。
真っ直ぐに。
ゼルクロノスへ向かって。
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