「吸収」
ゼルクルスはゼルクロノスを見つめていた。
目の前にいる。
姿は同じだった。
だが中身が違う。
圧力だけで分かる。
宇宙そのものがゼルクロノスを中心に歪んでいた。
「お前……」
ゼルクルスが口を開く。
「何をした」
ゼルクロノスは答えない。
ただ静かに戦場を見ていた。
その瞳には迷いがなかった。
怒りもない。
憎しみもない。
ただ。
力だけがあった。
「ゼルクロノス!」
統一派のゼルクロノス達が動く。
巨大なエネルギー弾。
次元斬撃。
空間崩壊攻撃。
あらゆる攻撃が放たれる。
宇宙が砕けるほどの威力。
だが。
ゼルクロノスは動かなかった。
攻撃が身体に触れる。
その瞬間。
消えた。
何も残さず。
まるで最初から存在しなかったかのように。
戦場が静まり返る。
「は?」
誰かが呟いた。
ゼルクロノスは右手を上げる。
それだけだった。
ゴォォォォォォォン!!
周囲の空間が捻じ曲がる。
数千人のゼルクロノス達が吹き飛ばされた。
「ぐあああああ!!」
「なんだこれは!!」
悲鳴が響く。
ゼルクロノスは無表情だった。
頭の中では。
まだ被害者達の声が響いている。
――なぜ私達は殺された。
消えない。
忘れられない。
だから。
力が欲しかった。
何も聞こえなくなるほどの力が。
何も否定されないほどの力が。
ゼルクルスが飛び出す。
「目を覚ませ!!」
能力が発動する。
相手を吹き飛ばす力。
見えない衝撃がゼルクロノスへ向かう。
直撃。
宇宙が割れる。
だが。
ゼルクロノスは一歩も動かなかった。
ゼルクルスの目が見開かれる。
「なっ……」
ゼルクロノスがゆっくり顔を上げる。
「弱い」
その一言だった。
次の瞬間。
ドゴォォォォン!!
ゼルクルスが吹き飛んだ。
能力でもない。
技でもない。
ただ放たれた衝撃だけで。
ゼルクルスは何百もの宇宙を貫通しながら飛ばされる。
「がぁぁぁぁぁ!!」
戦場が騒然となる。
「化け物だ……」
「止めろ!」
「全員でやるぞ!」
無数のゼルクロノス達が突撃する。
何億。
何十億。
終わりのない数だった。
ゼルクロノスはそれを見ていた。
そして。
静かに両手を広げる。
「終わりだ」
その瞬間。
空間が黒く染まった。
ブラックホール。
だが今までのものとは違う。
規模が違う。
宇宙そのものが吸い込まれ始める。
「まずい!!」
「逃げろ!!」
誰かが叫ぶ。
だが遅かった。
吸引が始まる。
ゼルクロノス達が引き寄せられる。
「ふざけるな!!」
「離せ!!」
抵抗する。
だが無意味だった。
力の差が大きすぎる。
ゼルクロノスは立ったまま見ている。
一人。
また一人。
ブラックホールへ飲まれていく。
そして。
吸収される。
「やめろおおおおお!!」
叫びが響く。
だが止まらない。
無数のゼルクロノス達が吸収されていく。
記憶。
能力。
人生。
全てがゼルクロノスへ流れ込む。
戦士だった者。
平和に暮らしていた者。
誰かを守った者。
誰かを憎んだ者。
全ての人生が流れ込む。
ゼルクロノスの瞳が揺れる。
苦しみ。
悲しみ。
怒り。
喜び。
膨大な感情。
だが。
止まらない。
「もっとだ」
自分でも気付かないうちに呟いていた。
「もっと力を」
その言葉に。
遠くで立ち上がったゼルクルスが絶望した。
「あいつ……」
理解してしまった。
もう止まらない。
ゼルクロノスは力を求めている。
限界なく。
終わりなく。
そして。
最後の一人が吸収された瞬間。
戦場から音が消えた。
静寂。
誰もいない。
残ったのは。
ただ一人。
ゼルクロノスだけだった。
その瞬間。
ゴォォォォォォォォォォォォォン!!!
全宇宙を揺るがす大爆発が発生した。
光が広がる。
一つの宇宙を超える。
十。
百。
千。
万。
無数の別宇宙へ到達する。
宇宙そのものが震えた。
ゼルクロノスは光の中心に立っていた。
そして。
ゆっくりと目を開く。
その瞳には。
無数のゼルクロノス達の人生が宿っていた。
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